超小型人工衛星を活用した宇宙ビジネスを展開するアクセルスペース(東京・中央)が、超小型衛星「GRUS」4機の増産に成功し、3月20日に打ち上げる。複数の同型衛星を一度に打ち上げるのは日本企業では初めてだ。
アクセルスペースは、複数の超小型衛星に協調した動作を行わせる衛星コンステレーションによって、世界中のあらゆる地域を高頻度で観察する「AxelGlobe」のサービス構築に取り組んでいる。18年12月に初号機を打ち上げ、4機が加わって5機体制になることで高い頻度の観測が可能になり、本格的なビジネスが始まる。
アクセルスペースの事業には、政府や宇宙航空研究開発機構(JAXA)も注目している。20年11月の「GRUS」の発表会ではシンポジウムが開催され、経済産業省、JAXA、NASAの関係者が出席。東京大学大学院工学系研究科・航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授がモデレーターとなって、アクセルスペースの中村友哉CEOとともに衛星コンステレーションの重要性と、民間による宇宙ビジネスを推進するための政府やJAXAとの連携について議論した。
前編ではアクセルスペースの中村友哉氏に「AxelGlobe」事業の狙いを聞いた。後編では民間による宇宙ビジネスの未来に迫る。
アクセルスペースが超小型衛星「GRUS」4機の完成を披露した20年11月、会場には日本の宇宙ビジネス発展の鍵を握る関係者が訪れた。経済産業省製造産業局宇宙産業室の伊奈康二室長補佐、JAXA新事業促進部の岩本裕之部長、それにNASA(アメリカ航空宇宙局)のガーヴィー・マッキントッシュアジア担当代表。国内で初めて複数の小型衛星を打ち上げるアクセルスペースへの注目の高さが表れている。
3人はシンポジウムにパネリストとして参加。モデレーターの中須賀氏の進行でシンポジウムが進められた。
アクセルスペースの中村氏は、学生時代は中須賀氏の研究室に所属していた。超小型衛星によるビジネスは、東京大学と東京工業大学で生まれた超小型衛星の技術を活用したものだ。はじめに中須賀氏が、超小型衛星の開発の歴史について触れた。
「03年に東京大学と東京工業大学が1キログラムという世界最小の人工衛星の打ち上げに成功し、そこから超小型衛星の歴史が始まりました。そのときのメンバーがアクセルスペースに3人いて、それ以降も大学で一緒に研究してきたメンバーが10人くらいいると聞いていて、大変うれしいですね。
世界ではこの超小型衛星を使って、実験や教育だけでなく、実用やビジネスの世界でも活用されています。特に衛星コンステレーションは、頻繁に撮影して地面の変化を知ることが大きなビジネスにつながります。
特に米国では地球観測サービスを展開するPlanetや、1万2000機の衛星を打ち上げて通信衛星サービスを展開しようとしているスペースXのスターリンクなどによって、大きな変化が起きています」
日本でも民間の力を生かして宇宙開発を進めようと、19年に宇宙基本計画が改定された。中須賀氏は「政府だけで宇宙開発をするのではなく、民間の衛星データを買うなどサービス調達の形で、政府と民間が連携していく世界を実現したい」と、民間に対する政府の支援の必要性を訴えた。
続いて、NASAのアジア担当代表のマッキントッシュ氏が、「日本に来る前はたくさんの宇宙開発の会社があるとは知りませんでした。優れた実力のある会社を知って驚きました。アクセルスペースは私を感動させた民間企業のひとつです」と、同社のAxelGlobe事業を高く評価した。
JAXAの岩本氏は、「宇宙ビジネスを広げるために、アクセルスペースさんを含め、いろいろなベンチャー企業や大企業と新しい宇宙開発を始めている」と新事業促進部の取り組みを紹介。AxelGlobe事業については「より細かい時間で地球を観測することによって、宇宙を利用する可能性が増え、生活に密着した宇宙活動ができると思っています」と期待を寄せた。
経産省は衛星コンステレーションの開発に注目している。伊奈氏は、内閣府で新たに立ち上げる組織で各省庁に衛星画像のデータを購入できるよう働きかけるとともに、今後もコンステレーション技術の開発を支援する方針を明らかにした。
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