厚労省のトップに、「自分たちの組織の問題」という認識があるのでしょうか? 「複数の部署や窓口などに相談したが、どこも機能しなかった。退職にまで追い込まれた」とパワハラを受けた男性が語るリアルを、厚労省のトップは、どう受け止めているのでしょうか?
どんなに相談窓口やら、相談員を設けたところで、トップに「パワハラを絶対になくす!」という揺るぎない決意がない限り、パワハラはなくなりません。
以前取材させていただいた企業では、1990年代初頭から、パワハラなどの人権に関する問題に取り組み、10年がかりで、やっと、本当にやっと「社員の誰もが声を上げられる仕組みができた」と話してくれました。
最初は「社員目安箱」というベタな名前の意見箱を食堂に置くことから始まり、「何がパワハラか? 何がセクハラか? を理解しよう」と社員教育も徹底的に行いました。
しかし、「みんな過敏になってしまい、ささいな上司とのすれ違いや、上司のちょっとした言動まで報告する部下が急増した」という事態が続出し、「もっと根本的な問題解決に向けて取り組もう!」と、トップが指示。
そこで「上司と部下の関係を含め、社内の人間関係に関するあらゆる問題に取り組もう!」と、コミュニケーション推進室を設置し、さまざまな角度から調査を実施し、手を替え品を替えいろいろな教育をし、散々取り組んだ結果、たどり着いたが、「円滑なコミュニケーションに尽きる」というシンプルな結論でした。
「パワハラなどの人権に関する問題を解決するには、日常的に円滑にコミュニケーションを図る努力しかないんです。パワハラ対策ではなく、パワハラが起きないような日常を作るしかない。それが最大の対策なんです」と、取材を受けた際に断言しました。
12年に厚労省が設置したパワハラのワーキンググループの報告書には、専門家たちの“思い”がこう記されています。
「全ての社員が、家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり、苦しめたりしていいわけがないだろう」
私たちは「労働者である前に人間」であり、「労働者は、その労働力を雇用者のために提供するが、その人格を与えるのではない」のです。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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