2021年度に向けて、春季労使交渉(以下、春闘)が始まった。本記事では、“経営者と労働者”とは違う客観的な視点で、現状の日本の賃金の問題点を整理する。
日本の平均賃金の相対的な下落が止まらない。諸外国との比較による低下が指摘されて久しいが、主要先進国(G7)の中で最下位である。OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも平均以下であり、低水準のグループに属するようになった。19年時点のOECDの平均賃金の国際比較表を図1に示す。
図は、各国の平均賃金を購買力平価で換算してドル表示したものである。購買力平価換算とは、物価水準などを考慮した各国の通貨の実質的な購買力を交換レートであらわしたものだ。例えば、同じマクドナルドのハンバーガーの価格が米国で1ドル、日本では100円である場合、1ドルと100円は同じ価値と見なして換算される。
G7の順位をみてみると米国、ドイツ、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、日本の順だ。金額比をみてみると日本は米国の58.7%、ドイツの72%、イギリスの81.8%である。15年時点で日本は韓国やイタリアを上回っていたが、19年では韓国とイタリアに追い抜かれてしまった。
1980年代の日本はバブル経済に湧き、賃金水準はOECDの中でトップクラスであり、国際的な経済の脅威とまでいわれていた。令和時代になってもGDP(国内総生産)は米国、中国に次いで3位をキープしている。しかし現状を放置すると、これからの日本の経済力の衰退は避けられない。国際競争力や、将来のGDP(国内総生産)にも大きなマイナス影響を及ぼすと思われる。
日本の賃上げは経営者と労働者の交渉によって決まる。毎年、年末に労働組合が賃上げの方針をまとめ、それに対して経営側が年明けに臨時総会を開いて春闘が始まる。
交渉のメインは図2に示す定期昇給とベースアップである。定期昇給とは賃金規定にもとづいて毎年昇給する部分であり、ベースアップは賃金全体の底上げである。
かつて労働組合は全国消費者物価指数(CPI)の上昇率をベースアップの根拠にし、経営側は企業の付加価値上昇率内にベースアップを納める生産性基準原理を根拠に、交渉が行われていた。しかし、バブル経済の崩壊やリーマンショック、デフレ経済の発生、物価の下落などにより双方の主張にブレが出てきたように思われる。
安倍政権下において官製春闘が行われるようになり、政府からベースアップの要求がされるようになった。これに応じてベースアップは行われたものの、穏やかな上昇にとどまっている。
労使交渉による定期昇給とベースアップの結果を図3に示す。額と率に分けてある。
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