市場は伸びていないのに、なぜ日本企業は「ムチャな数値目標」を掲げるのかスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2021年05月11日 11時03分 公開
[窪田順生ITmedia]

ムチャなノルマ設定と不正の関係

 ここまで言えばもうお分かりだろう。かんぽ不正を招いた「過剰なノルマ」の本質は、ウェルチ氏が唱えたストレッチ目標とはまったく異なり、日本の郵便局が抱えていた構造的な問題をゴマかすための尻拭い的な意味合いがあるのだ。

 本質が「低迷をごまかす」といういわば“粉飾”なので、やらされている人たちのモラルは急速にぶっ壊れていく。とにもかくにもノルマが大事、達成するには多少のルール違反も目をつぶる。それが組織内では常識になるので、逆にモラルがあったり、ルールを守ったりする人間は「無能」扱いされる。実際、かんぽ不正の内部調査によれば、ノルマ未達者は朝礼などでさらし者にされ、上司から「お前は寄生虫だ」などとののしられたという。

 もちろん、これは日本だけに限った話ではなく、どこの国でもある話だ。例えば、米大手銀行ウェルズ・ファーゴでも、行員に過大なノルマを課してクビなどをちらつかせた結果、顧客に無断で口座を開く不正行為が横行していた。ライバル銀行が投資業務を拡大して業績を伸ばし、劣勢に立たされる中でウェルズ・ファーゴとしてはクロスセールス(抱き合わせ商法)に力を入れて巻き返すしか道がなく、それが現場に押し付けられた。細かな違いはあるが、日本郵政のかんぽ不正とほぼ同じ構図だ。

 しかし、日本が特徴的なのは、このような「ムチャな目標」が引き起こす不正があらゆる業界・産業、そして会社の規模を問わずに広がっている点だ。先ほど触れた東芝やスルガ銀行はもちろん、数十年にわたるデータ不正が発覚した神戸製鋼、リコール隠しや燃費不正が続いた三菱自動車、大規模マンションの杭打ち不正が見つかった三井不動産とその下請けなど、目標未達を恐れる現場が自発的に不正に手を染めるケースは枚挙にいとまがない。

東芝でも従業員に過剰なノルマが課せられていた

 なぜこうなってしまうのか。個人的には、令和になってもいまだに「旧日本軍カルチャー」を引きずっている組織が多いからだと考えている。実は戦後経済をけん引して、日本企業の原型をつくった人々の大多数は、国家総動員体制下の「銃後の産業戦士」として軍隊式マネジメントを骨の髄まで叩き込まれている。つまり、われわれは「軍隊文化」を「日本の伝統的企業文化」だと勘違いして現代まで継承してきたのだ。

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