市場は伸びていないのに、なぜ日本企業は「ムチャな数値目標」を掲げるのかスピン経済の歩き方(1/6 ページ)

» 2021年05月11日 11時03分 公開
[窪田順生ITmedia]

 現実を直視すればどう考えても不可能でしかない「ムチャな目標」を現場に押し付けて、「みんなが一つになれば、きっとできる!」「あきらめたら、そこでおしまいだ!」などどひたすら精神論を叫び続ける――。そんな「ブラック企業カルチャー」が日本という国全体にまでいよいよ広がってきているようだ。

 コロナ医療の体制を見直すことなく、ただひたすら「休業しろ」「出勤するな」といった根性論を1年間続けてきたことによって、外食や食品卸、百貨店、イベント業界などが、ブラック企業で働く人のようにボロボロになっているのだ。

「ブラック企業カルチャー」がまん延しているのか

 そんな弱りきった人々をさらに追い込むような、新たな「ブラック目標」がちょっと前、全国民に言い渡された。2030年度の温室効果ガス削減目標を13年度比で46%削減を目標として、さらに菅義偉首相いわく、「50%(削減)の高みに向けて挑戦を続ける」というのだ。

 多くの専門家が指摘しているが、これはかなりの「ムチャな数値目標」である。政府が唱える省エネや原子力発電の活用がトントン拍子で進んだとしても、産業界は電気代アップなどのコスト増を強いられる。つまり、海外への生産拠点移転やそれに伴うリストラが進行して、コロナ対策同様に国内経済にまたしても深刻なダメージがもたらされる恐れがあるのだ。

 09年に鳩山由紀夫首相(当時)が国連で「2020年までに1990年比で25%削減」とぶち上げた後、この数値目標は撤回されたが、それと同じ道をたどるほどの「大風呂敷」だといわれている。

 このような話を聞くと、「国民の痛みを理解できない菅政権が悪い」「民間にパワハラのような目標を押し付ける政治を変えない限りは、日本に未来はない」なんて感じで政府や政治への怒りがムクムクと込み上げてしまう方も多いだろうが、実はこの傾向は民間企業もそれほど変わらない。

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