だが、日本ではこの理屈はなかなか通用しない可能性が高い。理由の如何を問わず、誰かが何らかのメリットを享受していることについて「許せない」と感じる人が多く、そのような人はむしろ罰則で強制したほうがよいと考えるからである。
日本では以前から長時間残業が問題視されてきた。残業禁止の措置を実施する企業は多いが、残業しないことにインセンティブを付けるケースは意外と少ない。残業が発生していることは、本来、終えるべき時間内に仕事が終わらないことを意味しており、見かけ上、禁止したところで、それはサービス残業に形を変えるに過ぎない。
コロナ危機をきっかけにテレワークにシフトした企業も多いが、部下がサボっていないか上司が過度に監視したり、時間の区切りが曖昧になって、事実上、無制限のサービス残業になってしまうケースがたくさんある。
こうした問題は、業務を効率化し、残業を減らすことに経済的メリットを付与することで解決できる可能性があるが、その方向には進みにくいのが現実だ。
ある企業では、エクセルのマクロ機能を駆使して単純作業をあっという間に終わらせ、いつも定時で帰る派遣社員に対して「がんばっていない」と評価して雇い止めにする一方、効率が悪くいつも長時間残業をしている派遣社員を継続雇用するという、コントのような話もあった。
業務の成果が同じであれば、かかったコストが下がったぶん、ボーナスが上がるようにすれば、こうしたバカげた問題は起きないはずだが、深層心理として、定時退社する人は「得」をしているという根深い感情が邪魔をしていると思われる(実際は残業代をもらっていないので、得などしていないのだが……)。
自分にとってメリットや利益があるならば、他人が何らかの利益を得ても気にしない感覚を持ったほうが経済活動や社会活動はスムーズになるし、最終的には自身の利益にもなる感覚を、日本人はもっと強く持つべきだろう。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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