「最低賃金1500円」にガクブル! 労働者の“ものわかりのよさ”はどこからきているのかスピン経済の歩き方(1/6 ページ)

» 2021年06月08日 10時15分 公開
[窪田順生ITmedia]

 「日本に生まれてよかった」とガッツポーズをしている中小零細企業経営者の皆さんも多いのではないか。

 先週、全国労働組合総連合(全労連)が、25歳の若者が人間らしく生活をするための費用を積み上げた最低賃金を試算して「全国一律で時給1500円が必要」と訴えたところ、非正規労働者などから「1500円でも足りない」などの声が相次いだ一方で、「そんなにもらったら悪いことが起きるに決まっている」と恐怖におののく労働者もかなり多くいたのだ。

 ネットやSNSに散見される意見としてはやはりというか、「地方の中小企業が全滅して結局、労働者が失業してしまう」というものが多い。また、「賃金を上げたらどうせ経営側は現場の人員を減らすので結局、1人がたくさんの仕事をさせられそうだ」と賃上げが過重労働のトリガーになることを懸念する声も少なくない。

 要するに、時給1500円ももらえるのは嬉しいけれど、そのせいで企業が経営難に陥って労働環境が悪化しないか、ということを心配して「無理して給料を上げなくていい」と考える労働者もかなり存在しているのだ。

時給アップの訴えに、労働者からは「反対」の声も

 このような「ものわかりのよい労働者」が中小企業経営者にとってありがたい存在であることは言うまでもない。6月4日、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会という、いわゆる「中小企業3団体」は、菅義偉首相と面会して、コロナ禍で中小企業はどこも経営難なので、最低賃金を引上げずに「現行水準を維持」すべきことを強く要望しているが、「最低賃金1500円」への否定的な声は格好の「援護射撃」となっているのだ。

 中小企業3団体は日本医師会同様、自民党の有力支持団体なので解散・選挙前の今はかなり影響力が増している。そこに加えて、一部労働者側からも「急な賃上げ」にガクブルする声が上がっているとなれば、政府が掲げる「最低賃金をより早期に全国平均1000円とすることを目指す」という方針も毎度おなじみの「骨抜き」にされる可能性が高い。つまり、なんやかんやと理屈をこねて、「平日フルタイムで働いて年収200万円以下」といった過酷な労働環境が放置され続けるわけだ。

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