「最低賃金1500円」にガクブル! 労働者の“ものわかりのよさ”はどこからきているのかスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2021年06月08日 10時15分 公開
[窪田順生ITmedia]

低賃金しか払えない会社でも辞めない

 「社畜」には「会社を辞めてより良い会社へ転職する」という発想がないので、「失業」がこの世でもっとも恐ろしい。だから、失業につながりそうな「賃上げ」にもガクブルしてしまう。つまり、日本の労働者にとって、実は「低賃金」はそれほど大きな問題ではないのだ。沈みゆくタイタニック号と運命をともにする船長のように、「低賃金しか払えない会社でも辞めない」選択をする労働者が多いのがその証左である。

 筆者も昔、ブラック企業にお勤めの人に取材で会った。どれだけ辛いのかを切々と訴えるので、こちらが「心と体が壊れてしまう前に早く辞めたほうがいいですよ」と言うと、「なんでそんなことを言うんですか」といった顔をする人が多い。真面目な性格からか「つらいから逃げ出す」といった行動に対して抵抗感があって、「転職」の選択肢すら考えない人がかなりいた。

 このような「会社を辞める」発想のない労働者が多くあふれていることが、「最低賃金を上げたら中小企業が倒産して失業者があふれかえる」という「神話」を広めることに一役買ったのではないか、と個人的には考えている。

 という話をすると必ず、「いや、韓国は賃金を上げて失業率が跳ね上がって経済が崩壊したはずだ」と主張する方がいるが、かの国では賃上げうんぬん以前に、韓国特有の財閥を頂点とした超階級社会という構造的問題があり、これが以前よりすさまじい数の失業者を生んでいた。健全な雇用だったところに「賃上げ」で、いきなりおかしくなったわけではない。

 また、データをみる限り「経済崩壊」も事実ではない。日本生産性本部の労働生産性のデータによれば、日本の19年の就業者1人当たりの労働生産性(実質GDP÷就業者数)は8万1183ドル(購買力平価で換算したドル価格)で、OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国中26位。一方、韓国は24位で抜かされてしまっている。

1人当たり労働生産性(出典:日本生産性本部)

 経済成長という点でも厳しい。IMF(国際通貨基金)の予測(21年4月)によれば、20〜26年の日本の実質GDPは8.9%上昇するが、韓国は17.0%上昇する見通しだという。これで「経済崩壊」ならば、生産性でもGDP成長率でも韓国に追い抜かれた日本のことはなんと呼ぶべきなのか。

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