そこで気になるのは、なぜ日本の労働者はこんなにも「ものわかりがよい」のかである。世界の常識では、労働者は「もっともっと」と賃上げを強く迫るのに、日本では経営者の主張に同調して、1000円にも届かない最低賃金で文句も言わず真面目に働いている。そのストイックさは「異常」と言ってもいい。
ご存じのように、日本の賃金は先進国の中でもダントツに低い。この30年、先進国の多くがリーマンショックだなんだとありながらも着々と賃上げしているにもかかわらず、日本の平均賃金は30年以上も横ばいで最近ではなんとお隣の韓国にまで抜かれてしまう始末だ。
この常軌を逸した低賃金の弊害は、社会のいたるところに出ている。地域の最低賃金ギリギリで働くような非正規雇用が2200万人もいてワーキングプアの問題が深刻となっている。親の賃金がいつまでも上がらないので、子どもはどんどん貧しくなる。厚生労働省の「相対的に貧困の状況にある子どもの割合を表した指標」(2018年)によれば、日本の子どものおよそ7人に1人が相対的貧困状態にあるという。
国によっては暴動が起きてもおかしくないほど惨(みじ)めな状態に追いやられているにもかかわらず、「時給1500円なんてとんでもない!」と日本商工会議所みたいなことを真顔で言う労働者がたくさんいる。このような「無欲すぎる労働者」ほど、全国にあふれるブラッ……ではなく人件費をできる限り圧縮して利益を確保したい中小企業経営者からすればありがたい存在はない。
では、なぜ日本の労働者は「賃上げ」に対してガツガツしていないのか。「そりゃもらえるなら、たくさんもらいたいけど、なにもカネだけで働いているわけじゃないからさ」とか「なんだかんだ言って日本人は会社への忠誠心もあって真面目なんだよ」などいろいろなご意見があるだろうが、筆者は日本特有のある労働文化による影響が大きいと考えている。
その労働文化とは、「社畜」だ。
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