パーソル総合研究所が19年8月に公表した、日本を含むアジア太平洋地域14の国・地域を対象とした就労実態調査によれば、日本の労働者は「勤務先への満足度」が対象国中で最下位。にもかかわらず、「転職したい」という回答も最下位だった。
日本の労働者はよその国の労働者に比べて、「現状維持志向」が強いのだ。いや、論点をはっきりとさせるために、もっとストレートに言ってしまおう。日本は諸外国と比べて、「文句を言いながら会社にしがみつく社畜」が圧倒的に多いのである。
このような会社への帰属意識が強い労働者が多い国で、なかなか「賃上げ」の機運が高まらないことは言うまでもない。「人間らしい生活ができないから最低賃金1500円に上げろ」なんて騒いだら、非正規雇用ならばサクッとクビを切られておしまいだ。正社員でもリストラや左遷の憂き目にあって、「しがみつきライフ」を送ることができない。
つまり、日本の労働者が30年以上も平均賃金が横ばいで文句ひとつ言わず低賃金労働に甘んじてきたのはストイックだからではなく、経営者と対立することなく雇い続けてもらいたい「保身」の思いが諸外国の労働者よりも強いからではないか。
不快になる方も多いかもしれないが、「社畜」の切り口で考えれば「最低賃金1500円」という労働者ならば誰もが喜ぶ話を、「そんなことをしたら恐ろしいことになるぞ」とガクブルする労働者がかなりいる、といった不可解な現象もすべて説明がつく。
実は以前から成長戦略会議メンバーのデービッド・アトキンソン氏が主張しているが、諸外国では「賃金を上げたら失業者が増える」ことを示すデータは存在しない。経営者側の主張に基づく、科学的根拠のないポジショントークに過ぎないのだ。
にもかかわらず、日本では労働者までが「賃金上げたら失業者があふれて日本はおしまいだ」と主張し、「賃上げ」をまるで新型コロナウイルスのように恐れてきた。なぜこんなことになってしまうのかというと、「転職」の視点が欠けているからだ。
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