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オフィスに「居ながら改装」で業務への影響を最小化 “創造性を生む場”をどう作ったのかボッシュ渋谷の事例から(4/4 ページ)

» 2021年07月07日 07時00分 公開
[人事実務]
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チェンジマネジメントを担う“アンバサダー”

 先述のようにボッシュ渋谷本社ビルの改装は、仮オフィスに引越しすることなく、通常通りに業務を遂行しながら、1、2フロアずつ解体と改装を進めていく「居ながら改装」によって進められた。

 渋谷施設管理部は改装に先立ち、一般的なスケルトン改装と、居ながら改装のメリット、デメリットを比較した上で、より多くのメリットを得られる居ながら改装を選択したという。

 木村氏は、こう説明する。

 「コスト面で比べると、仮オフィスを借りて引越しをしなければならないスケルトン改装よりも、居ながら改装の方がリーズナブルです。

 一方、工期に注目すると、1、2フロアの引越しを何度も繰り返すことになる居ながら改装の方が大幅に時間がかかります。事実、今回の改装は16カ月間の長期におよびました。

 その他、スケルトン改装の場合は、仮オフィスを別の場所に借りるので、社員にとっては勤務地が変わることになります。場合によっては、1つの部課を分割しなければならない状況があるかもしれず、業務に少なくない影響が及ぶと推測されます。この点で居ながら改装は、業務への影響を最小化できると考えました」

 居ながら改装によって、職場環境や新しい働き方の推進を促すチェンジマネジメントもスムーズに行えたと木村氏は語る。

 「16カ月間に及ぶ工事期間を通して、マインドセットを変える取組みやイベントを継続的に実施した結果、職場環境が大きく変わるということや、これから新しい働き方をしていくのだということを多くの社員に実感してもらえました。心配された工事に対するクレームや混乱が生じるようなことはありませんでした」

 チェンジマネジメントに関することでは、各部署から選出された30人程からなる「アンバサダー」の存在にも触れておきたい。アンバサダーは施設管理部と協働してワークショップやインフォーメーション・セッションなどを開催。情報発信や社員とのコミュニケーションを通じてチェンジマネジメントを推進した。

 「アンバサダーが大切な役目を果たし、社員一人一人から共感を得ていったことが改装プロジェクトの成功を裏支えしていたと私たちは考えています」(木村氏)

 アンバサダーには若手社員も多く参画した。ちなみに、施設管理部でもリーダーシップをとったのは若手社員だったそうだ。

 「このプロジェクトは、技術集約型社会でキャリアを積んできた人よりも、知識集約型社会によりなじみのあるデジタル・ネイティブ世代の方が適任であると考え、若手に積極的に取り組んでもらいました」(木村氏)

 チェンジマネジメント関連の施策は、工事に先立つこと実に1年以上前から進められた。実際の工期は16カ月間だったが、そこからさかのぼること5カ月前から改装完了までの計21カ月間にわたりチェンジマネジメントを目的に、情報発信などに取り組んだ。そうした活動を含めると、本社ビルの改装プロジェクトは約3年間にわたり進められたことになる。

photo 居ながら改装の進め方

 木村氏はプロジェクト期間中を振り返り、「スケジュール管理が、とにかく大変でした」と語る。

 「改装を控えているフロアの部署に引越し準備を促したり、改装が終了したフロアの部署に引っ越してきてもらい、業務ができるように準備をしてもらったり、といったことを16カ月間にわたり、ずっとやり続けてきました。

 1カ所遅れが出ると全て後送りになりますから、とにかく遅れを出さないようにしなければならないということで、工事期間中はずっと張りつめていました」たゆまぬ努力のたまものだろう、結局、大きな遅延が発生することはなく、最終的に当初予定通りの16カ月間で工事を終了することができた。

どういう働き方にしていくべきかを皆で考える

 職場環境や働き方に対する考え方、価値観が大きく変化しようとしている今、オフィスの役割をどう捉え、オフィスにどんな意味を持たせるかは大きな課題だ。

 「これからのオフィスの役割、意味を考えることは、新しいチャレンジになる」と下山田氏は語る。

 「いま、デジタルネイティブな世代は純粋に『オフィスは必須ではない』と感じています。そのような状況のなかで私たちがチャレンジすべきこととしては、『本当に人々が来たくなるオフィスにするためには、どういう根源的なニーズを満たすべきなのか』を考えることです。

 本当に真剣にその欲求を満たすようなオフィスの在り方を見つけ出し、実現していかなければならないと考えています」

 すでに施設管理部が中心となり、一般社員から経営層まで、あらゆる層を巻き込んで意見交換をはじめているということだ。

 高い創造性が求められる時代である。知識集約型組織への移行は、今後、どの企業にとっても重要な課題になると考えられる。挑戦的な職場環境づくりと働き方革新の取組みを通じて、組織としての創造性を飛躍的に高めようとしているボッシュの取組みは、大いに参考になるだろう。(取材・文/外崎航)

人事月刊誌『人事実務』〜これからの働き方とキャリア形成〜

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 『人事実務』誌は、産労総合研究所(創立1938年)が発行する人事専門情報誌です。

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 本記事は『人事実務』(2021年6月号)特集「オフィスは何のための場所?」より「事例1 ボッシュ」を一部抜粋、要約して掲載したものです。

 当該号の詳細はこちらからご覧いただけます。


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