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電子帳簿保存法とe-文書法は、何が違うのか 成り立ちを整理するいまさら聞けない電子帳簿保存法(1/3 ページ)

» 2021年07月15日 07時00分 公開
[中田清穂ITmedia]

いまさら聞けない電子帳簿保存法

 令和3年度の税制改正で、電子帳簿保存法(※)が改正されました。電子帳簿保存法は、これまでも数回の改正が行われてきましたが、令和3年度の改正はこれまでと比べると抜本的改革というべき内容です。

 ただし、これまで取引先からメールに添付された請求書のPDFファイルを紙で出力して保存していた会社では、エビデンスの原本としては認められなくなるという改正点もあります。「うちの会社は電子帳簿保存法とは関係ない」と考えていても、知らないうちに税務上認められない手続きになる可能性が高いので、きちんと理解しておかなければなりません。

(※)正式な法律の名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。

photo 写真はイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 まず、電子帳簿保存法の成り立ちから説明します。いまさら聞けないお話です。

電子帳簿保存法とe-文書法は、別々の法律

 セミナーや研修会で「電子帳簿保存法、いわゆるe-文書法ですが……」とか「e-文書法である電子帳簿保存法は……」などという表現で解説されることがありますが、間違っています。電子帳簿保存法とe-文書法は別々の法律です。ただ密接な関連はあります。

 先にできたのは電子帳簿保存法で、1998年に公布されました。このときの電子帳簿保存法で可能になったのが、国税関係帳簿の電子保存です。国税関係帳簿は、例えば、総勘定元帳、仕訳帳、得意先元帳、固定資産台帳などの帳簿です。エビデンスは含まれません。

 98年に電子帳簿保存法が公布されるまで、会社の規模を問わず、国税関係帳簿は全て紙での保存が義務付けられていました。従って、大企業ではほとんど誰も見ないにもかかわらず、おびただしいページ数の帳簿類を全てプリントアウトして、7年以上も保管し続けていました。プリントアウトの工数、紙代、保管代、運送代など、大変な無駄が発生していました。

 それが電子的に保存できるようになり、プリントアウトをしなくてすむようになったのです。これが今から23年前のことです。

 その後、2005年になってe-文書法が公布されました。e-文書法公布の背景は、世界中でIT化が進むとともに、経営スピードもどんどん速くなっていく中で、日本企業の経営スピードが上がらないことが問題視されていました。

 日本企業の経営スピードが上がらない原因の一つが、間接部門の業務が非効率で、情報が経営に達するスピードが遅いことだと考えられました。

 日本企業は、紙文化だといわれています。日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2018」では、先進国7カ国での労働生産性が、日本はずっと最下位になっていることが分かります。経理・人事・法務・総務などといった、いわゆる間接業務の労働生産性が、米国と比べると30%以上も低いのです。同じ利益を稼ぐのに、日本企業は米国企業と比べて30%以上も人件費をかけているということです。

photo 日本の間接部門の生産性=日本生産性本部の資料より

 日本企業の間接業務の労働生産性が低い、根本的な原因が紙文化だといわれています。紙を中心にした業務では、紙に絡んでいろいろな作業が併発します。

 入力・登録、貼付け、出力、複写(コピー)、押印、バインド、回覧(何人も……)、山積み(デスクに他の物が置けなくなる)、整理、探す(しかも、なかなか見つからない)、破損・紛失、作り直し、ファイリング(二穴パンチ、インデックス、背表紙作成)、書庫・キャビネット保管、他部署などからの依頼による「エビデンス取り出し・閲覧・PDF化」、倉庫へ搬出(段ボール作成、あて名書き、運送業者手配)、税務調査・監査のために倉庫から搬出、監査人・調査官のために段ボールからエビデンスを探しまくり、提示する──などなど、パッと思い付くだけでもこんなにあるのです。

 米国企業、いえ、日本以外の企業は、こんなことはしていません。日本以外の企業は、紙を中心とした業務になっていないからです。日本以外の企業は、たとえ紙でエビデンスを入手しても、すぐに電子化(PDF化)して紙は捨てているのです。

 この状況を打破するために、05年にe-文書法が公布されました。05年当時、「紙で保存する」ことを義務付けた法令は、298本ありました。このうち251本の法令に対して「電子的な保存」を認めるようにしたのが、e-文書法なのです。

 そして、同年この影響を受けて、電子帳簿保存法も改正されました。05年に改正された電子帳簿保存法では、国税関係帳簿だけではなく、国税関係書類に対しても電子保存を認められることになりました。

 国税関係書類は、例えば、領収書、請求書、契約書、見積書、納品書などのエビデンスのことです。つまり、日本では今から16年も前の05年からエビデンスも、紙ではなく電子的に保存できるようになっていたのです。

 しかし、日本企業では、エビデンスの電子保存はあまり普及しませんでした。05年から15年の10年間で、税務署にエビデンスの電子保存申請を行ったのは、わずかに152社。年間平均で約15社です。

 これではそもそもの目的である、「紙をなくそう」そして「経営への情報伝達のスピードアップを図ろう」という目的がほとんど達成できません。そこで15年以降、電子帳簿保存法は改正を重ねられてきました。

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