莫大なカネを生む「カジノ」が、日本で“オワコン”になった3つの理由スピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2021年08月31日 10時34分 公開
[窪田順生ITmedia]

最後のフロンティア

 という話をすると決まって、「IR事業者にとって日本ほど魅力的な市場はないので、そう簡単にあきらめないだろ」というような人がいる。確かにかつて日本は「IRビジネス最後のフロンティア」と言われていた。現金を貯め込んだ高齢者が山ほどいて、パチンコや競馬が国内のいたるところにあって、ギャンブル依存症もかなりいる。つまり、「カジノに大金を注ぎ込むハイローラー予備軍」が山ほどいる、“黄金の国”に見えたのだ。

 しかし、サンズをはじめ多くの海外IR事業者が、日本国内のIR招致レースから早々に撤退したことからも分かるように、それは幻想だったことが分かっている。今の日本において、「カジノもある豪華な巨大施設」というビジネスモデルはちっともおいしくない。もはや成立すること自体が難しいという意味では、「オワコン」と言ってもいいかもしれない。理由は山ほどあるが、大きな点では以下の3つだ。

(1)規制

(2)利権化できない

(3)パンデミックへの弱さ

 (1)の「規制」に関しては、以前から専門家が指摘しているが、カジノライセンスの期間がやたらと短かったり、税率が高かったり、高額な入場料を取ったりと、巨額の投資をしようという海外事業者にとってちっともおいしくないのだ。

 かといって、国内企業にとっておいしいかというとそうでもない。

 カジノはマネーロダンリングや、犯罪組織が関与する恐れがあるため、国際的なルールに基づいて、事業者にライセンスが付与されるのだが、そのハードルはかなり高い。経営者の個人資産や、家族に反社会勢力がいないかなど厳しくチェックされるので、これをクリアできる企業はかなり限られる。

 つまり、IRが誘致される地域の中規模企業や、地域の利権を掌握しているような人々は逆立ちをしても、IRビジネスにガッツリと関わって甘い汁を吸うことができないのだ。役人も同様だ。海外企業が事業主体なので、パチンコにおける警察のように再就職先として確保することも難しい。

 これが(2)の「利権化できない」という点だ。

 「東京2020」を見ても分かるように基本、日本の国家事業は利権がないと盛り上がらない。大物フィクサーが、さまざまな関係者の利害を調整して、分け前を分配する。政治家も高級官僚も天下りで甘噛(あまが)みして関わる。そういう政官民一体となった“利権ムラ”ができてはじめて五輪のようなお祭り騒ぎを起こせるのだ。

 しかし、IRではそのようなスタイルは難しい。IR事業者が政治や官僚と癒着していることがバレて、カジノライセンスを剥奪されると、よその国のカジノライセンスも剥奪されて、事業に深刻なダメージを及ぼすからだ。このように「利権化できない産業」は、わが国ではあまり大きく成長できないのだ。

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