風雲急の新生銀行TOB 金融庁は「モラル欠如」のSBIを認めてよいのか見過ごせない「事件」とは(3/3 ページ)

» 2021年09月24日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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 さて、ここで指摘したいのは、SBISLの織田貴行社長(当時)が北尾SBI社長の野村証券時代の後輩であり、その後もソフトバンク、SBIと常に北尾氏と行動を共にしてきた腹心中の腹心であるという点です。グループトップの北尾氏が織田氏との綿密な関係の下でSBISLの上場を指示していたことは間違いなく、SBISLを巡る不祥事はSBIそのものの問題であるといえるのです。

 SBISLは6月、本件におけるSBIの審査体制がずさんかつ「事実と異なる説明で投資家を勧誘していた」として金融庁から業務停止命令を受け、SBIは事を封印するかのごとくソーシャルレンディング事業からの撤退を決めました。SBIがその投資金を保障する方向で投資家に被害が及ぶことは避けられてはいるものの、この件は他人の資金を預かる金融機関として由々しき問題であると考えます。金融庁はこの問題を、SBIの業務姿勢や企業風土を、どのように考えているのでしょう。

モラルの欠如した再編でいいのか

 新生は確かに長期にわたって経営停滞という状況に甘んじ、公的資金返済に向けて経営権を委ねた外資からも手を引かれており、現状のままでは公的資金返済に万策尽きた状況にあるといえます。そんな状況下で、新しいビジネスモデルを引っ提げて同行の経営革新に乗り出そうという「やり手」の登場は、株主からも歓迎されるものに違いありません。すなわち、このような流れを提案するSBIのTOBは仮に敵対的なものになろうとも、多くの株主がTOB賛成に動いてしかるべきでしょう。しかしそれはあくまでTOB成立後に経営を担う提案主が、一般銀行を経営するに足る信頼のおける存在であるならば、ということが大前提です。

 SBISLを巡る一件から見てとれる、金融モラルが欠如している企業グループに新生の経営を委ねていいのかと考えれば、金融の常識から断じて「NO」であると考えます。金融秩序を守る立場の金融庁がなぜ今回、SBIの株式買い増しを認可したのでしょう。SBIの限界地銀救済のバックアップを約してしまったからなのか、あるいは公的資金返済という目先のメリット優先の認可であったのか。後者ではあってほしくはないとは思いますが、既に認可の取り消しは間に合わないことだけは間違いありません。

 いずれにせよ、このままSBISLの件が、新生株主によるTOB諾否の判断材料として俎上(そじょう)に乗ることなく進んでしまうこと、すなわち株主に不利益を及ぼす情報が正しく株主間で共有されずに進んでしまうことは、大きな問題であると思います。新生がTOBに賛同しないのならば、SBISLの第三者委員会による調査報告をエビデンスとして「銀行経営にふさわしくない企業グループからのTOB提案である」ことを強く訴えるべきではないかと考えます。このままSBIによる新生へのTOBが成立してしまった場合、地銀再生までもがモラル欠如の利益追求に利用されてしまい、取り返しのつかないことになるのではないかと思うにつけ、空恐ろしい気持ちになるばかりなのです。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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