コロナ禍だけのせいじゃない? 大ピンチの百貨店で「大家」化が進んでいる納得のワケ小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)

» 2021年09月29日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 8月下旬、全国の百貨店店舗ごとの売り上げランキングと動向が分かる、日経MJ百貨店調査(2020年度)が公表された。通期でコロナ禍での営業となった年度の実績であり、売り上げトップ100の中に増収の店舗はなく、前年度比マイナスを示す「▲」がオンパレードの表になっていた。

 インバウンド需要が消失した上に、休業要請・時短要請・入場規制など、営業の制約が影響して大きなダメ―ジとなった。中でも、それまでインバウンドの恩恵を受けていた大都市部の店舗は、昼間人口の減少もあり、大きな減少幅となっており、東京・大阪の基幹店に支えられていた大手百貨店チェーンは、厳しい経営状況に追い込まれている。

 コロナ第5波がようやくピークを越えた中、ワクチンの2回目接種が人口の過半数に到達し、希望する全員へのワクチン接種のメドが11月ごろという状況も見えたところで、コロナによる経済活動への制約についても、ようやく緩和が議論されるようになってきたようだ。ワクチン接種が進む海外において、感染者が再び増加して3回目接種などを進める話も聞こえてきているが、計画通りに接種が進めばコロナ感染による重症者が減ることで、経済活動への制約緩和ができるようになる。百貨店や、それ以上の制約を受けていた外食産業などの営業制約が、一刻でも早く緩和されることを願うばかりだ。

百貨店業界、一難去ってまた一難?

 とはいえ百貨店業界は、コロナ禍という災厄が去ったとしても安穏としている余裕はないだろう。コロナ禍前までの百貨店販売額は、長期的な縮小が常態化しており、その構造的な減収トレンドから脱する出口が見えていたわけではない。その背景としては、ファミリー層の百貨店離れや、その受け皿となった大型ショッピングセンターの台頭、中高年女性向けの衣料品へのシフトによる顧客層の高齢化、などさまざまな要因が絡んでいる。

 そして、近年では店舗小売業に共通の課題であるECの台頭によって、百貨店はさらに厳しい未来が予測される環境になっていた。幸いなことに14〜15年に限ってはインバウンドという追い風が吹き、減収ペースが緩和したのだが、コロナ禍の直撃で一息つくことも出来なかった、というのが実情だといえよう。

出所:経済産業省「商業動態統計」、単位は百万円

 百貨店各社も、これまで手をこまねいていたわけではなく、大手を中心に生き残りのための戦略を整えようとしてきた。最大手の三越伊勢丹ホールディングスは、ECとの連動を目指して仮想現実(VR)を活用したアプリ上で買物体験ができるサービスを投入して、伊勢丹新宿店の仮想店舗売場を自由に回遊可能な環境を整えているし、J.フロント リテイリングは、松坂屋銀座店を建て替え、ショッピングモールGINZA SIXとして再構築した。

 GINZA SIXの例は、在庫リスクを取引先が持つ「消化仕入方式」から、テナントと定期賃貸借契約を結び家賃収入を得るショッピングセンターに転換したものであり、こうしたケースは大丸松坂屋百貨店も実施している。同社は大丸心斎橋店において本館の6割を定期貸借方式としたハイブリッド型百貨店に転換した。

「消化仕入方式」とは何か

 そもそも「在庫リスクを取引先が負担する消化仕入方式」とは何か、少し説明しよう。

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