賃金は本当に上がるのか? 安いニッポンから抜け出せない、これだけの理由スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2021年10月26日 10時40分 公開
[窪田順生ITmedia]

中小企業を守る

 米国型の新自由主義でも、北欧型の福祉国家でも「競争力のなくなった会社が潰れるのは自然の摂理」という考え方が一般的だ。古い会社が消えて新しい会社が生まれる、という新陳代謝で経済が成長していくのが、資本主義の常識だからだ。しかし、なぜか日本は生活保護並に中小企業を守るようになった。

 この背景には、「中小企業は日本の宝であり、中小企業が元気だと日本経済も成長をする」という日本やイタリアで見られる「中小企業信仰」もあるが、何よりも大きいのは「政治力」だ。

 例えば、スーパーなどの大型店規制が分かりやすい。今でこそイオンやライフが全国にあふれているが、40年くらい前までは、大型スーパーは「社会悪」とされ厳しい規制の対象だった。なぜそうなってしまったのかという背景は、当時の『日経新聞』を読めば分かる。

 『ここ数年、中小小売業の政治パワーに苦汁を飲まされ続けてきたスーパー、「政治力をつけないことには中小側の思うままになる」と危機感を強めている。といってもそう簡単にことは運ばない。何しろ相手側には「中小小売業は社会的弱者、政治的に保護されるべき存在」という”錦の御旗”がある、集票力もかなわない。中小小売商を守る議員連盟には自民党だけですでに180人近い国会議員が加わっている』(日本経済新聞 1982年3月21日)

 つまり、日本の中小企業は、与党への強い政治力で「保護」を勝ち取ってきた歴史的事実があるのだ。そして、重要なのが、この政治力が紆余曲折ありながらも現在までしっかりと継続していることだ。

「大型スーパーは社会悪」と言われていた時代があった(提供:ゲッティイメージズ)

 例えば、19年の参院選。日本商工会議所幹部らで組織する政治団体「全国商工政治連盟」の組織内候補である、宮本周司氏が自民党の比例で出馬して、約20万票を獲得して再選を果たした。6年前の初当選から2万票も上積みして、比例選での順位も4つ上げた。その後、宮本氏は経済産業大臣政務官を拝命。中小企業団体からすれば、理想的なキャリアアップだ。商工会幹部もマスコミに対して、こんな自信をのぞかせている。

 『農協(農業協同組合)や郵便局の勢いには陰りが見える。民主党政権時代も一貫して自民党を支持した我々の存在感はさらに高められる』(読売新聞 2019年8月16日)

 野党に下ったときも見捨てないで支え続けて、選挙でもしっかり貢献した。当然、中小企業3団体は「論功行賞」として、これまで以上に手厚い中小企業保護を期待した。が、この「魚心あれば水心あり」という関係をぶち壊した人間がいる。そう、菅義偉前首相だ。

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