賃金は本当に上がるのか? 安いニッポンから抜け出せない、これだけの理由スピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2021年10月26日 10時40分 公開
[窪田順生ITmedia]

誰トクなのか

 ここまで赤字企業だらけ、というのは世界的に見てもかなり珍しい。少し古いデータだが、総務省の「法人数と利益法人割合の国際比較」という資料では、各国の赤字法人率が米国46%、英国48%、ドイツ56%、韓国46%と半分程度となっている中で日本だけが72%(12年度)となっており、「一部の黒字企業に税負担が集中しているものと考えられる」と指摘している。

法人数と利益法人割合の国際比較(出典:総務省)

 しかも、この異常なほど多い赤字企業の中には「税金を払いたくない」という理由から意図的に赤字にしている中小企業もある、と言われている。

 財政金融委員会調査室の「中小企業をめぐる税制の現状と課題」の中でも、中小企業の税制問題の特徴として「赤字法人問題」を挙げて、「赤字を出しながら経済活動が維持できる理由について純粋な疑問も生じる」「赤字法人問題は所得操作など税務戦略が作用しているとの指摘は絶えない」などの問題提起をしている。

 そこで想像していただきたい。このような「赤字法人問題」が半ば常識化している中で、「賃上げに積極的な企業への税制支援」がどれほど効果を発揮するだろうか。

 一般的に、赤字企業は賃上げに積極的ではない。「経営が苦しいので我慢してくれ」と従業員を納得させることもできるからだ。こういう赤字企業に対して「税制支援」をちらつかしてもそのスタンスにほとんど影響はない。そもそも法人税を払っていないので、わざわざ賃上げに踏み切るメリットが皆無なのだ。

 一方、黒字企業の場合、既にそれなりに賃上げをしているケースのほうが多い。「税制支援」をちらつかされても、「もう十分賃上げしてきたよ」ということで、こちらも効果は限定的だ。

 つまり、自民党が賃上げの切り札として掲げている「賃上げに積極的な企業への税制支援」というのは、「誰トク?」と首を傾げてしまうほど、どこを対象に、どんな効果を狙ったものなのかがさっぱり分からない、「謎の経済政策」なのだ。

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