(1)資金を移動する日
資金を移動する日(上記2)については、金融庁・事務ガイドライン(資金移動業者関係)(以下「事務ガイドライン」といいます。)の「主な着眼点」において、「為替取引の依頼を受けた際、実際に、資金の移動に関する事務を実施する上で、具体的日付となる資金の移動の完了予定日(以下「完了予定日」という。)をいう」ものとされています(※1)。また、「なお、送金人が完了予定日を予め指定しなかった場合には、資金移動業者から送金人に対し、完了予定日を提示し、送金人の確認を得ること。また、その際に完了予定日から逆算した入金予定日を伝達し、入金予定日までは資金を受け入れないこと」という考え方も示されています(※2)。
(※1)事務ガイドラインIII−1−1−1(1)1(丸数字)(注2)
(※2)事務ガイドラインIII−1−1−1(1)1(丸数字)(注2)
これらの事務ガイドラインの内容を踏まえた場合、第一種資金移動業の認可申請においては、合理的な期間に収まる(理由なく長期間にわたらない)完了予定日の想定を具体的に定めたうえで、送金サービスの運用フローを説明することが重要になるものと思われます。
また、完了予定日の想定について、送金サービスの利用規約などの契約において規定することも実務上重要になりますので、「本サービスにおける送金の完了予定日は、送金指示を受け付けた日から○日以内の当社所定の日とします」といったイメージの条項をあらかじめ検討することも有益でしょう。
なお、現行の資金移動業をすでに遂行している事業者においては、従来の利用規約などを活用することも可能ですが、完了予定日の記載ぶりなどについては、これらの滞留制限措置の所要の見直しを行うことになるものと考えられます。
(2)移動する資金の額および資金の移動先
移動する資金の額(上記1)および資金の移動先(上記3)については、完了予定日とは異なり、送金サービスの受付において一般的に取決めを要する項目となることから、想定する送金サービスの内容に応じて定めることで実務的には対応可能と考えられます。
もっとも、送金の受取人側(資金の移動先)に関する要請として、「受取人が資金を受け取る場合には、受取人が予め登録した受取人の銀行等の預金口座に直接資金を入金するなど、受取人の資金について為替取引の完了に向けて無用な滞留が生じない措置を講じているか」という着眼点が示されている点には留意が必要です(※3)(下線筆者)。
(※3)事務ガイドラインIII−1−1−1(1)3(丸数字)
具体的には、例えば、想定している送金サービスにおいて、受取人の銀行などの預金口座をあらかじめ登録できない場合には、上記の着眼点との関係で認可申請に支障が生じる可能性があります。そのような場合には、サービス利用者として想定される送金人側の事情だけではなく、受取人との接点の有無などを勘案してスキームを設計することが重要です。
また、他の資金移動業者との連携などを図る場合において、連携先における為替取引の完了状況(受取人への入金状況)なども論点になる可能性がありますので、提携交渉などに先立ち、本論点をあらかじめ検討しておくことも有益でしょう。
(3)事務処理に必要な期間
上記に加え、事務処理に関連する事項として、「資金の移動に関する事務を処理するために必要な期間…」を定めることも求められています(資金移動業に関する内閣府令32条の2第2項)。この点については、「運用・技術上必要な期間であり、例えばテロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策上の確認・検証、海外拠点や銀行等への連絡、銀行口座への振込といった、個々の為替取引の事務処理に要する必要最低限の期間を考慮し、合理的に算定した期間」という着眼点が示されています(※4)。
(※4)事務ガイドラインIII−1−1−1(1)2(丸数字)(注3)
そのため、認可申請に際しても、個別事情を具体的に考慮したうえで合理的な期間を定めることが求められます。銀行口座への振込の完了時期など、資金移動業者側のみでコントロールできない要素もありますので、この点についても前広な検討を行っておくことが望ましいものと思われます。
以上の滞留制限に加え、第一種資金移動業サービスにおいては、その送金取引が高額かつ高頻度に及ぶケースも想定されることから、AML体制およびシステム体制も実務上着目されるポイントになります。
第一種資金移動業においては、「他の種別の資金移動業者と比較してより堅牢なテロ資金供与及びマネー・ローンダリングリスク管理態勢を整備する」ことが求められます(※5)。また、具体的な項目として、リスクの特定・評価やスクリーニングの必要性などが挙げられています(※6)。
(※5)事務ガイドラインIII−1−4−1
(※6)事務ガイドラインIII−1−4−1の1(丸数字)から6(丸数字)まで
そのため、認可を申請するに際し、上記の事務ガイドラインの要請を踏まえたAML体制の検討をあらかじめ行っておくことが重要となります。
もっとも、上記の事務ガイドラインの項目は、一般的なAML体制において求められる項目とおおむね重なる内容にとどまります。実務的には、以下のような個別具体的な事情を踏まえたうえで、AMLに関するリスク検討を具体的に実施することが重要となるものと思われます(認可に際しては、形式的なリスク評価ではなく、実質的なリスク評価や対策について、具体的に説明することが有益でしょう)。
システム体制に関しても、「第一種資金移動業者は、高額の為替取引を行うため、攻撃者の標的になる可能性が高く、システムリスク管理について、より強固な管理態勢整備、セキュリティ対策を講じることが求められる。また、システム障害等の不測の事態によるサービス停止時に利用者への影響が大きくなることも想定されることから、システムの安定稼働のための対策を講じることが求められる」ものとされています(※7)。この記載から、システム体制に関するポイントは、外部からの不正アクセスなどの対策とシステム障害などの対策と読み解くことができます。
(※7)事務ガイドラインIII−1−3
これらのポイントに関する実務対応の着眼点は、事務ガイドライン3−1−3−1に挙げられていますが、一般的なシステム体制の整備との関係で特殊な事項までは含まれていないものと考えられますので、想定する送金サービスにおけるシステム対応を丁寧に実施することで、実務的には対応可能と思われます。
法制度の枠組みからすれば、これまで資金移動業のライセンスの下で取り組んでいた各種サービスにおいても、第一種資金移動業の認可を得ることでサービスの拡張を図ることも可能となります。この場合、すでに述べた通り、従前の契約関係などを踏まえ、滞留制限にどのように対応するかがポイントになりますので、今後の検討が広まることが期待されます。
2002年上智大学法学部卒業。2006年中央大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。2015年より中央大学法科大学院兼任講師、2016年より一般社団法人日本クレジット協会個人情報保護専門部会 リーガルアドバイザー、2018年より一般社団法人日本暗号資産取引業協会監事を務める。ファイナンス及び金融レギュレーション等を中心に広く企業法務を取り扱う。著作「第一種資金移動業および第三種資金移動業に関する実務対応の着眼点」金融法務事情2166号4頁ほか。
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