まず新生銀行へのTOBが成立しないなら(国がこれを成立させない方向に動くなら)、SBIが地銀支援策から手を引くかのようにおわせたことで、「限界地銀」再建策にこれといった妙案を持たない金融庁が金融政策的に追い込まれてしまい、SBIのガバナンスに目をつぶってでもTOBを認めざるを得なくなったのではないか、という点です。あるいは、前述のようにSBIが金融庁大物OBである五味元長官を新生銀行会長に据える案でTOBを仕掛けたことが、金融庁の慧眼を雲らせてしまわなかったか、という点も気になります。
そして金融庁にとってこのような苦しい状況下にあって、「公的資金を必ず完済させる」と言い切ったSBIの宣言は、TOBによって税金でもある公的資金返済のチャンスであるということを意味します。すなわち、この宣言こそが国としてSBIの名門大手銀行へのTOBを後押しする判断の格好の大義名分になったことは、間違いないと確信しています。
以上を端的にまとめれば、金融庁は「限界地銀救済策」への協力という最も「痛いところ」を突かれつつ、大物OBを囲い込まれることで外堀を埋められ、揚げ句に「公的資金返済」という大義名分まで用意されて、見事にTOB支援という方向に陥落したのではないかというわけです。用意周到に運ばれて、関連会社SBISLにおける金融モラル欠如は業務改善命令と引き換えに目をつぶらざるを得ない展開に持ちこまれてしまった、と私の目には映るのです。
TOBが成立した今、あえて金融庁に要望を申し上げるなら、これから新生銀行がSBIの傘下入りしてどのようにその業務内容が変わっていこうとも、結果的に業務改善を出した金融モラル欠如ともいえる組織に、わが国の大手銀行の経営を任せることになった今回の一件の、最後の引き金を引いた責任を重く感じて欲しいところです。そして金融庁OBのSBIへの天下りを無駄にしないよう、彼らとの連携の下で同社に身勝手な「勝ち逃げ」を許さぬよう監視の目を光らせて欲しい――ということに尽きるでしょう。
三者三様に問題を抱えつつ進行した新生銀行を巡るTOBですが、決まった以上は結果をしっかり出す以外にありません。金融機関出身の一OBの立場からは、三者がしっかりと手を携えて構想を形にしていくことを切に願ってやみません。
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