インバウンド活況から一転、需要が激減したホテル業界。その中で筆者は「ボーダーレス化」が顕著になったと指摘する。本記事【前編】では、業態の変容と、コロナ禍で見えてきた根強い需要について指摘する。
コロナ禍は、ホテル業界にかかわらず、過去の常識が通用しないことを露呈させた。「ある種の伝統や常識」「コンサバティブ」いったイメージを保ち続けてきたホテルにとっても、未曾有(みぞう)の事態に遭遇、対峙し変化を続けてきた2020〜21年であった。
例年、年末年始はさまざまな媒体から業界展望的記事の依頼をいだたくが、まずはここ数年の劇的な変化を振り返りたい。そして、インバウンド活況〜コロナ禍についての所感をアプローチとして、それに続くコロナ禍に直面した20〜21年のホテル業界の変化を整理することからはじめたい。
本来ホテルとは、宿泊機能の他に、レストランやバー、ウエディングや宴会といったフルサービスも提供する「シティーホテル」といわれる業態・施設を指す。
一方で、宿泊に特化するホテルは、国際的には“INN(イン)”、日本では「ビジネスホテル」と呼ばれ、提供されるサービスは限定的(リミテッドサービス)。長らく、「シティーホテル(フルサービス)=豪華」「ビジネスホテル(リミテッドサービス)=簡素」という区分が世間では通用してきた。
しかし最近、宿泊に特化したホテルから聞かれるようになったのが「ビジネスホテルと呼ばないで」という声だ。
近年、業界では宿泊に特化したホテルについて「宿泊特化型ホテル」という呼称が広まってきた。確かに「シティーホテル=豪華」「ビジネスホテル=簡素」というイメージにはそぐわない宿泊特化型ホテルが増えてきた。
もちろん宿泊特化型なのでディナーやウエディング、宴会などの提供はない(地方都市などでは、結婚式や宴会などができるコミュティタイプのビジネスホテルもある)ものの、朝食や温浴施設、スパトリートメントなどの付帯施設で差別化を図り、簡素というイメージには似つかわしくないシティーホテルのようなクオリティーの宿泊特化型ホテルが多くなった。
設備やデザイン、広くとられた客室面積なども含め、スタイリッシュで豪華という点から“宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)のボーダーレス化”とも表せるだろう。例えば、温泉旅館をテーマにするビジネスホテルが人気を博し、和室にベッドやソファを入れる伝統的な旅館など、シティー・ビジネス以外でもボーダーレス化の傾向は進んでいる。
これは、旅行スタイルが団体から個人へと変化し、さらにインバウンド活況で顕著となった旅行者嗜好(しこう)の多様化がもたらした側面である。
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