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» 2022年01月11日 07時00分 公開

金融に革命をもたらす「組込型金融」(エンベデッド・ファイナンス)の可能性なぜ、注目されているのか(1/2 ページ)

組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)という言葉がバズワードになっている。市場規模は2026年には1380億円に拡大する見通しだ。なぜ、ここまで大きな反響を呼んでいるのか。

[小林啓倫,ITmedia]

特集:裾野広がる銀行API “金融業界”を越えたビジネスの可能性

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 2019年11月、米国の著名ベンチャーキャピタルAndreessen Horowitzのパートナーであるアンジェラ・ストレンジ氏が、「あらゆる企業がフィンテック企業になる」(Every Company Will Be a Fintech Company)と題された講演を行った。この講演は多くの注目を集め、一つのバズワードを生み出すに至った。それが本稿のテーマ「エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)」である。

 エンベデッド(Embedded)とは「埋め込まれた、組み込まれた」を意味する英単語で、組み込みソフトウェア(Embedded Software)でも使われる表現である。つまりエンベデッド・ファイナンスとは、組み込みソフトウェアのように、金融サービスが別のサービスに「組み込まれて」機能を発揮するというイメージだ。日本語でもエンベデッド・ファイナンスは、「組込型金融」や「埋込型金融」などと訳されている。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 技術の進化や規制の整備といった要因が後押しとなり、いまや金融サービスを他のさまざまなサービスに組み込むことが可能になった。従って、あらゆる企業がフィンテック企業として振る舞えるようになる――それがストレンジ氏の主張だった。

 彼女が示したコンセプトを、その後多くの企業が実際のサービスとして具体化し、「21年はエンベデッド・ファイナンスの年になった」という声まで出ている。エンベデッド・ファイナンスの市場規模は、21年の430億ドルから、26年には1380億ドルを超えるまでに成長するという予測もある。なぜエンベデッド・ファイナンスは、ここまで大きな反響を呼んでいるのだろうか。

Uberが組み込んだ金融機能

 エンベデッド・ファイナンスを説明する際によく取り上げられるのが、配車サービス「Uber」の支払いの例だ。Uberで車を呼び出し、目的地まで移動したとしよう。事前にクレジットカードなどの設定を済ませておくと、客は車を降りる際に、いちいちサイフを取り出す必要はない。そのまま立ち去るだけで支払いは完了しており、ドライバー側にも報酬が支払われている。

 同様の「サイフ不要」決済サービスは他の分野でも導入が進んでおり、誤解を恐れずに言えば、あまり驚きを感じないものとなっている。

 しかしよく考えると、Uberは金融機関ではない。にもかかわらず、このように便利な決済を実現できるのは、彼らが他社から提供される金融機能を「エンベデッド」しているからだ。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 もう一つ例を挙げよう。オンラインストアのプラットフォームを展開している「Shopify」は、一部ユーザー限定で「Shopify Balance」という機能の提供を始めた。この機能を利用すると、Shopifyのユーザー(つまり同社のプラットフォーム上でオンラインショップを開設している小売業者)は、Shopify上で銀行口座を開設し、そこから入金や支払いといった資金管理が可能になる。通常であれば、自分で銀行口座を用意しなければならないが、それが不要になるのだ。

 このケースでも、Shopifyが銀行のライセンスを取得して、自ら金融業に乗り出したというわけではない。実際の銀行口座は、既存の銀行から提供されている。それをオンラインストアのサービスに組み組んで提供しているわけである。

エンベデッド・ファイナンスを実現する要素

 これらの例からお分かりいただけるように、エンベデッド・ファイナンスには「さまざまな金融の機能を提供する金融機関」(通常「プロバイダー」と呼ばれる)と、「その機能を自社サービスに組み込む非金融機関(同じく「ブランド」と呼ばれる)」が存在する。

 さらにプロバイダーとブランドの間を仲介し、両者のやりとりを技術的に可能にする企業「イネーブラー」も存在する。この3者がそれぞれの役割を果たすことで、エンベデッド・ファイナンスが実現される。

photo (図1)エンベデッド・ファイナンスの構造

 図1は、3者の関係を図式化したものだ。例えば、前述のShopify Balanceの場合、ブランドはShopifyということになる。その裏にイネーブラーとして控えているのは、フィンテック企業のStripeだ。彼らはゴールドマン・サックスなどの金融機関(この場合のプロバイダーということになる)と提携し、Stripe Treasuryというサービスを提供している。このサービスは、いわゆる「BaaS」(Bank-as-a-Service)と呼ばれるもので、非金融系の企業が銀行機能をサービスとして使えるようにする。Shopifyはこれらを活用して、Shopify Balanceを構築したのである。

 ただし、これら3者の役割や関係がどれほど明確なものかは、業界や地域によって大きく異なる。エンベデッド・ファイナンスに関わる企業が急速に増加している米国では、それぞれの役割がはっきりしており、特定の役割しか演じない企業も多い。

 一方、アジア圏では、いわゆる「スーパーアプリ」と呼ばれるような、配車サービスから金融サービスまでを一貫して提供するアプリケーションも登場している。こうしたアプリを提供する企業は、自社で全ての機能を開発する、あるいはイネーブラーやプロバイダーにあたる企業を自社グループの傘下に収めるといった戦略を採用しており、全体を見た場合に役割の区別はあいまいだ。

 図1では、他に「API」という単語も登場している。これは「金融API」と呼ばれるもので、文字通り、金融機能をプロバイダーとイネーブラーの間でやりとりする際のインタフェースとなるAPIだ。いま各国では、金融機関がAPIの整備を進める動きが生まれており、エンベデッド・ファイナンスの普及を後押しする要因の一つとなっている。日本でも、18年の改正銀行法で、金融機関に対してAPIの公開に関する努力義務が課された。

なぜエンベデッド・ファイナンスが注目されるのか

 さらに図1には「サービスとしての金融機能の提供」という記述もある。これはエンベデッド・ファイナンスとどう違うのだろうか。

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