今回、42年間で初めての値上げということだが、実は13年前から「ギブアップ」の声が出ていた。2008年、リスカの武藤社長(当時)はこんな弱音を漏らしている。
『製造を合理化してコスト削減に尽くしてきたけれど、もう限界。私たちは今後絶対に値上げしません、と宣言できないことが悲しい』(読売新聞 2008年7月19日)
つまり、もうとっくに「限界」は超えていたのである。それでも13年も値上げをせずに持ちこたえていたのは、リスカが「がんばった」からではない。「欲しがりません、勝つまでは」と社員が生活を切りつめていたからでもない。
「限界」に達しても消耗戦ができるだけの「規模の経済」があったからだ。「うまい棒」以外、30製品以上を扱う規模の中堅企業へと「規模拡大」していたおかげで、なんとか持ち堪えていたのだ。
日本では、このように「企業が規模を大きくすることのメリット」についてあまり論じられない。なぜかというと、日本の中小企業は「現状維持」がデフォルトだからだ。
小さな家族経営の会社は30年経過しても、同じく小さいままで同じ業態を続けていたり、町工場は30年経っても、同じ従業員が同じ賃金で働いていたり。それらはちっとも悪いことではなく、むしろ「美徳」とされる。そのユニークな企業文化は、中小企業庁の『小規模企業白書2019』の「存続企業の規模間移動の状況(2012年〜2016年)」にもよく現れている。
これは2016年時点で廃業せずに存続している事業者、295万社が、4年前の12年からどれほど、従業員を増やすなどして企業規模を拡大させてきたのかを調べたものなのだが、規模拡大に成功したのはなんと7.3万社のみで、95%(281.3万社)が「規模変化なし」だったのだ。つまり、リスカのように小規模事業者から着々と規模を拡大して大きな企業に成長するのはレアケースで、ほとんどの中小零細企業は何年経っても「現状維持」なのだ。
だから、「うまい棒」の値上げしたニュースを受けて、多くの人はやおきんやリスカが「現状維持」をがんばったと勘違いしている。時代が変わっても、同じビジネスモデルを守って、コストを抑えて昔と同じ価格を維持していたなんて立派だね、と賞賛している。
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