こちらは一般的なDXの事例だ。予防医療を“ITのパワー”を使って低価格に利用可能にしようというもので、教科書的な手法といえる。ITといっても大げさなものではない。シェアリングエコノミーとクラウドワークを組み合わせたものだ。
全国の病院、クリニックにあるMRIやCTは必ずしも100%活用されているわけではない。MRIは数億円しようかという高価な装置だが、整形外科クリニックなどにも置かれていることが少なくない。CTに至っては、日本ではとりわけ多くの医療拠点に置かれている。
これらを空いている時間で有効活用する、いわゆるシェアリングエコノミーで最適化できるなら、MRIを導入している病院としても助かるはず──というのは誰もが考えるストーリーだ。
しかし実際には、単に検査装置をシェアリングするだけでは機能しない。MRIにしろ、CTにしろ、その映像情報を読影して診断を行うには専門家が必要となるからだ。
そこでスマートスキャンでは装置のシェアリングを行うだけではなく、映像データをネット上でセキュアに共有。脳のMRI、MRA画像は、それぞれ放射線科と脳神経内科の医師が両方セットで必要になるというが、それぞれの医師が自分の空いている時間にアルバイトで読影するクラウドワークの仕組みを提供している。
利用者は会員登録し、予約した時間、予約した場所に訪れ、MRIの中に15分ほど入れば、あとは着替えて帰るだけ。登録した会員IDでログインすると、自分の映像をいつでも確認でき、また数日もすると読影結果が反映される。
脳ドックというと相場は5万円、他もろもろの検査がセットで7万円といったサービスメニューが多く、とても気軽とはいえない。MRI検査の医療点数が高く、病院側としては医療診断でなるべく使って売り上げを上げたいという意志もあるようだ。
しかしスマート脳ドックは、装置と読影する医師、両方の空き時間を活用するため、MRI、MRAによる脳と血管の診断を税込1万9250円で提供している。
スマートスキャンの代表取締役・濱野智章氏に話を聞いてみると、このように真正面からのストレートなDXは、医療業界に認めてもらうには苦労も多いようだ。当初は自分達でやってみせなければと、東京・新宿、銀座、大阪・梅田に専用クリニックを設置するところから始めたという。
しかし、こうして実例を作り上げていくと全国で「うちのMRIも使ってほしい」と依頼が来始め、現在は仕組みづくりが病院施設の申し込みに追い付くのが大変なぐらいだとか。効率化が進めば、加齢などによる判断異常、トラックやバスの運転手のミスで大きな事故が発生するといった問題も減ることが期待できる。
しかし、ここに出光興産が絡んでくるのが分からなかった。
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