オンキヨーの衰退、“経営陣だけ”を責められないワケ 特異すぎる日本のオーディオ市場本田雅一の時事想々(1/5 ページ)

» 2021年07月02日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 4月末に大阪の大手音響機器メーカー・オンキヨーの経営危機とホームAV(オーディオ&ビジュアル)事業譲渡への動きが伝えられると、翌月にはシャープと米ヴォックスインターナショナルへの事業譲渡が発表された。7月には新しい体制でのスタートが切られる。

photo オンキヨーの公式サイトより

 ご存じの方も多いだろうが、オンキヨーは2015年、同じく音響機器を主軸として成長したパイオニアのAV事業を取得していた。今回、パイオニアの事業もまとめて手放すことになる。

 そもそもの話でいえば、パイオニアの映像ディスクプレーヤーはシャープがパイオニアを支援する形で合弁で共同開発・生産を行っていたので、シャープにとってはそうした事業の継続、さらには関西という地域の中でオンキヨーを支援する意味合いもあるのかもしれない。

 5月の報道以来、オジサンたちには懐かしくも、かつては憧れの対象でもあったブランドの落日に、ややセンチメンタルなコラムも見られた。オーディオ&ビジュアル業界で長年仕事をしてきた筆者の立場で書かせていただくならば、この衰退を招いたのは近視眼的で戦略性のない経営がもたらしたものだ。

 しかし、経営陣だけを責める気にならないのは、日本の伝統的なオーディオ市場が極めて特異な環境にあるからだろうか。

オンキヨーの自主性が失われた、2012年の転換点

 オーディオブーム時代のオンキヨーは東芝グループ入りをきっかけに売り上げを大きく伸ばしたが、バブル崩壊とともに赤字化。自社ブランドのオーディオ事業からすでに撤退していた東芝が、オーディオ事業からさらに距離を置こうとするタイミングで、別の事業で成功した大朏直人氏が個人で買収した。これが1993年のことだ。

 従って、多くの人の心に残っているオンキヨーは大朏家が経営していた頃と重なっている。現在、名誉会長の大朏直人氏とは、同社がインテルからの出資を受けた頃に何度か話をしたことがある。極めて合理的かつ効率を重視した経営をする方で、伝統的なオーディオ業界の慣習に対して疑問を投げかけていたのが印象的だった。

 その大朏氏は経営の一線から退く時期に、いくつかの投資を行った後、同氏の息子世代へとオンキヨーを引き継いでいくが、ホームオーディオやAVアンプ、スピーカーなどの事業環境が厳しくなる中で、新しい技術トレンドへの動きは敏感だった。

 将来はインターネットとデジタルオーディオにあると考え、05年にはロスレスハイレゾオーディオのダウンロードサービスを開始した他、08年に経営危機にあったパソコンメーカーのソーテックを買収。オーディオ機能を重視したパソコンを開発したり、当時はまだ注目されてもいなかったハイレゾ音源のダウンロード販売サービス「e-Onkyo」をいち早く開始したりするなど、他のオーディオ専業メーカーにはない動きをしていた。

 しかし12年、楽器メーカーとして知られるギブソンの傘下へと入ってから、メーカーとしてのオンキヨーの様子は変化した。

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