むしろ問題なのは、閉鎖的な日本のオーディオ市場に特化した縮小均衡の中で、日本のメーカーがガラパゴスの外には決して足を踏み入れようとしないことだ。
例えばグローバルのオーディオ市場を見ると、アナログディスク(いわゆるレコード)への回帰が一部にある一方で、ワイヤレス伝送技術やストリーミングサービスへの対応といった流れがある。
前者に関しては伝統的な日本のオーディオブランドも得意とする領域だが、後者に関して対応できているメーカーは少ない。
コロナ禍の中でオーディオ製品の売り上げが伸びているという話は、各メーカーとも実感としてあるようで、メーカーからも販売店からも話を聞く。しかし、いずれコロナ禍も落ち着くため、大きく市場動向が変化することはないだろう。
また、ブランド力のある規模の小さなオーディオメーカーの収益も高くなっているが、それも一時的なものと考えるべきだろう。コロナ禍で海外での展示会などが減り、試聴会などマーケティング施策の費用や出張費などの経費が削減される一方、自宅で音楽を楽しむ人が増えているからだ。
しかしコロナ禍が落ち着き、世の中が正常化し始めたときに成長できるかどうか、ライバルに対する競争力を持つかどうかはまた別の話になる。
アナログディスクを起点とする趣味としてのオーディオ市場拡大は日本のメーカー、例えばアキュフェーズ、ラックスマン、デノン、マランツなどのメーカーにも好影響を及ぼしているが、安定した売り上げや成長を望むならば音楽コンテンツの楽しみ方の変化への対応は不可欠になるだろう。
アナログディスクとは対極の存在ではあるが、音楽配信サービスの定着は確実に音楽を聴くための道具を変えている。加えて一部の配信サービスが追加料金を伴うプレミアムサービスとして提供してきたハイレゾかつロスレス、すなわちマスター品質の音楽配信をApple Musicが追加料金なしで提供し始め、米国ではアマゾンもAmazon Music HDを追加料金なしで提供するようになった。
Apple Musicの場合、全7500万曲がロスレスでの配信だが、今後は配信サービスに納品されるマスターそのものを選択的に配信することがスタンダードになっていくだろう。すると、高級オーディオに求められる機能やコンポーネントへのニーズも一変することになる。
今後は高級オーディオでもストリーミングサービスへの対応が求められるようになっていくだろうが、日本のオーディオメーカーの多くはそのための準備ができていない。
実は似たような状況の変化は過去にもあった。
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