オンキヨーの衰退、“経営陣だけ”を責められないワケ 特異すぎる日本のオーディオ市場本田雅一の時事想々(2/5 ページ)

» 2021年07月02日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 後に資金がショートして計画は破綻するが、当時のギブソンは世界中のさまざまなオーディオブランドを買収。楽器や音楽制作に関わるブランドから、オンキヨーのような一般消費者向けブランドまでをグループ内に多数抱えながら、音楽カルチャーと密接に結び付けることで事業価値を高めようとした。

 音楽カルチャーとの結び付きを強く保ちながら、アーティストや音楽ファンたちに良い音を届けるというコンセプトそのものは、アップルが買収したBeatsをはじめ成功事例にあるやり方だったが、オンキヨーの自主性は失われていたと思う。

 当時、ギブソンはコンシューマー向けオーディオ製品の中心的なブランドの一つとしてオンキヨーを位置付けていたが、同時にそれまでとは製品開発の方向性がやや変化していたように感じていた。

 その後、プラズマディスプレイの生産開発投資の失敗などからAV製品事業が弱体化してしまっていたパイオニアが、収益性が高かったカーナビ部門(カーオーディオも厳しかったがカーナビと一体化されていたため分離はされなかった)やDJ向け機材の部門を除き、ポータブルオーディオや家庭向けオーディオ、AV機器の部門をオンキヨーに売却。この買収を進めたのもギブソンだった。

 しかし積極的すぎる投資が裏目となって資金ショートしたギブソンは、連邦破産法第11条の適用対象となり、グループの資産を整理していく中でオンキヨー株も売却。17年11月にはギブソンとの資本関係はなくなっていたが、それ以前からオンキヨー、パイオニアともに人材流出が進んでおり、筆者が知るエンジニアや商品企画担当者などもほとんどいなくなっていた。

時代の流れを“読んでいた”オンキヨー

 オンキヨーとの思い出話をしてしまったが、伝えたかったのはオンキヨーの物語がオーディオ業界の趨勢(すうせい)の歴史を投影しているかといえば、そうではないということだ。

 大朏名誉会長はオーディオ以外の業界でいくつかの企業を立て直してきた経営者で、その視線はグローバル市場や消費者目線に向いていたと思う。“効率よりも音質”といった音質至上主義ではなく、市場ニーズや経営効率を見据えながら、事業継続を何よりも優先していたというのが、現在、振り返って感じることだ。

 メディアのデジタル化が進む中で、インテルとの資本関係を結んでパソコンメーカーを買収、伝統的なオーディオ技術とパソコンの融合を図り、ハイレゾ音源のダウンロードサービスを展開した動きは、そうした姿勢が良い面で表れた部分だった。

photo オンキヨーグループの概要=同社の資料より

 自社だけでは縮小均衡的な経営を続けるのがやっとという厳しい経営環境の中、ギブソン傘下に入ったことも、世の中全体のトレンドからすれば方向は間違っていなかったと思う。

 結果としては、2期連続の債務超過で東証一部の上場が廃止され、シャープとヴォックスインターナショナルに買収されることにはなったが、時代の流れを見ていたことは間違いない。

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