AIオンデマンド乗合タクシーの成功の秘訣 全国30地域に展開する「チョイソコ」の事例から前編(5/6 ページ)

» 2022年02月12日 07時00分 公開
[ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

行政と公共交通事業者との関係は積み重ね
普段から地域の移動課題や今後のビジョンを共有しておく

川島氏 国や県に頼っても仕方ないと思います。それよりも、地域の公共交通事業者と一緒に「地域の交通をしっかり守り、持続可能にしていく」というビジョンを共有できるかどうかだと思います。ある日人事異動で担当者がころっと変わり、突然上から目線で「タクシー会社にも地域の交通を守る責任ある」などといわれても、事業者は困惑するでしょう。交通事業者との関係は、積み重ねが必要です。

 チョイソコについても、われわれからある日突然「チョイソコをやりたいです、タクシー会社ももうかるから一緒にやりましょうよ」といわれても、すぐにはできないと思うので、日ごろから信頼関係を構築して、「地域の交通を守っていく」という認識を共有しておくことが大事だと思います。

 国や県も、業界団体等に対して、協力して地域の交通を守ろうよと働きかけをしていますが、そのメッセージが届いていない事業者も多いのが実態です。従って、より多くの事業者に、地域の交通を守ろうという意識が広がるように、国や県にも取り組んでいってもらえると良いかと思います。

 交通事業者も、乗客減少でどこも経営が大変で、どのように事業を持続させていくかという課題は行政と共通していると思います。あとは、今後のビジョンや取組みのイメージを共通して持てるかどうかということですね。それには、行政が音頭を取って連携の素地を築いていくことが大事だと思いますし、首長のリーダーシップも必要ではないかと思います。

AIを走行速度の計算に使い
利用者の待ち時間が長くならないように調整

 次に、チョイソコの運用の特徴について議論したいと思います。私は、地域公共交通会議の議事録などを拝見して、AIと、コールセンターのオペレーターという二つの要素に着目しました。まず、AIの活用について議論させて頂きたいと思います。

 チョイソコの平均乗合率は、最も高い午前9時台でも2を下回っています(※3)。1台につき、一人か二人しか乗っていないという状況であれば、AIを使わなくても、人間の頭でルート設定ができるのではないでしょうか。特にチョイソコの場合はタクシー会社が運行しているので、ベテランのタクシードライバーなら、地元の道路の状況はとても詳しいと思います。

 なぜこのようなことを申し上げるかというと、最初に話したように、CASEに注目が高まり、モビリティ分野への新規参入が増え、AIを活用した配車システムが数多く開発されています。そして多くの商品が「AIで最適ルートを決定」とうたっています。私が疑問に思っているのは、一斉に多くの人から予約が入る状況であれば、瞬時に、最も効率的なルートを決めるのにAIが適しているのかもしれませんが、実際には、乗合タクシーにはそんなに乗客は乗っていません。そもそも、乗合タクシーを必要とするような地域では、人口も減少し、移動需要は大きくない。

 これから人手不足が進めば、移動サービスにおいても、AIを活用してマンパワーを補っていかないといけない場面が増えるだろうと思いますが、使うべきなのが配車システムなのかというのが、腑に落ちないのです。

(※3)「令和3年度第1回豊明市地域公共交通会議」配布資料より。

加藤氏 それではお聞きしたいのですが、他の企業は、配車システムのどの部分にAIを使っているのでしょうか。競合他社は、絶対にそれを言わないんですよ。「AI」はバズワードになっていて、何となく「人工知能」と言って商品を宣伝しているのです。例えば15年ぐらい前からあるカーナビゲーションも、当初からVICS(道路交通情報通信システム)を考慮してルートを決定していました。運転中に「渋滞したからルートを変更しました」と言うでしょう。あれだって、十分AIといえるんです。人ではないモノが、何らかの情報をもとに再計算しているから。

 しかし、チョイソコで使っているAIは、そのカーナビとも違います。うちはAIを何に使っているか、はっきり発表しています。われわれがチョイソコを全国展開するにあたって、それぞれの土地で車両の走行速度が違うんです。例えば、愛知県の国道1号線は制限速度が時速50キロ、鹿児島県志布志市の国道220号線も50キロですが、じゃあ同じように50キロで1時間走ったら、どちらも50キロ進むかというと、結果は道路環境によって全然違います。

 だからわれわれは、システムが計算した予想到達時間に対して、実際には何分で着いたかを記録してその地域に合ったものに設定変更しています。「ナビだと5分で着くと予測したのに、実際には6分11秒かかっちゃいました」という具合。その結果、チョイソコの豊明バージョンと志布志市バージョンでは、システム上のパラメーターが全然違うんです。

 以前からあるカーナビの弱点は、あらかじめ「一般道は時速何キロ」「高速道路は時速何キロ」と設定されていて、それに対して今から何キロ走るかを割り算して、そこにVICSの渋滞情報を加味して、到達時間を計算する。

 全国で標準化されているということですね。

加藤氏 そうです。カーナビが全国どこに売られるか分からないので、新車でも中古でも、全国統一の基準で作られているんです。実は設定はドライバーが変えることができるんですけど、あまり利用されてないですからね。ナビはあくまで目安でしかない。実際に走行して、いきなり渋滞が起きると到着時間が10時5分、10時8分、10時10分、という風にどんどん遅れていっちゃうんですけど、みんな「仕方ないなあ」と思ってナビを見ている。

 でもチョイソコは、目的地でお客さんを降ろしたら、また次のお客さんを迎えに行かないといけないので、そんなに到着が遅れていったら、高齢者が炎天下や寒い日に、バス停で15分待たなければならないという状況が起きる。それは絶対避けないといけなかった。だからチョイソコがやってるのは、営業担当が新しい地域へ行くと、必ず実際に車で走って道路環境を確認し、「この状況だと豊明に似てるな」「各務ヶ原に似てるな」「だいたい走行速度はこれぐらいだろう」と判断して、設定を変えている。運行開始のテープカットをしたその後も、担当者が車両を後ろから追跡して状況を確認しています。だから、長崎県五島市の場合は、走行開始3日目で設定を変えました。信号が無いから、びゅんびゅん進むんです。

 地域でチョイソコを導入する前と、導入した後に、それぞれ営業担当の方が実際に現地を見て、車を運転して確かめて、設定を変えているということですね。AIは、「最適ルート」という言葉をよく目にするので、私はルート決定にAIを使っているのだと思っていました。それであれば、タクシードライバーがカーナビを使ってルートを決めるのも、AIオンデマンドも一緒じゃないかと思っていましたが、チョイソコの場合は速度の計算にAIを使っているということですね。お客さんから見たら、待ち時間がより少なく乗れるということですね。

加藤氏 はい、導入する地域ごとに、幹線道路の走行速度と枝線道路の走行速度を計って、システムを設定しています。われわれはそれを「パラメータ」と呼んでいますが、自治体によって全部違います。例えば、長野県佐久市では、冬と夏で速度の設定を変えてます。雪国だから冬は遅くなる。毎年、12月15日からシステム上の速度を落とすんです。こんなこともすぐできる。われわれはここでAIを使い、あとは普通のナビゲーションの技術の延長で、ナビが道を勝手に探します。チョイソコでは、このようにAIを活用していますが、他の企業がどこにどう使っているかは、明らかにしないので分かりません。

 また、チョイソコの運行業務においては、委託しているタクシー会社のドライバーさんの裁量を大きくしています。走行ルートはナビで表示しますが、実際にその時どのルートを通るかは、ドライバーさんに任せているのです。ローカルな場所で、例えば「あっちの信号が赤だったら、こっちは青になる」とか、「この時間帯はこの道は路上駐車で通れないことがある」とか、そういう細かな情報までは、われわれには分かりません。システムよりベテランドライバーさんの方が、適切に判断できる部分がありますから。

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