ソニーが放つ、異色の“穴あきイヤフォン” 「ヒアラブル機器」が再ブレイクしそうな理由本田雅一の時事想々(1/3 ページ)

» 2022年03月04日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 スマートフォンに集まる情報を“スマートフォンを操作することなく”ユーザーに伝えたり、やりとりしたりできないか──。スマートフォンの普及が決定的になって以来、さまざまな企業がその手段を模索してきた。

 今では懐かしいが、グーグルが開発したメガネ型デバイス「Google Glass」も、スマートフォンに自然に集まるようになった情報やサービスを、視覚的にやりとりしようとしたものだった。人間とネットワークの世界を視覚的につなぐデバイスは、そのうち普及期を迎えることになるかもしれない。

 視覚だけではない。技術的な課題や制約はあるものの、聴覚は現実世界とネットワークを接続する有望なジャンルといえるだろう。

 中でも、ソニーが発売した「LinkBuds」は、新しい世代への入り口に差し掛かったことを予感させる製品だ。ソニー自身もその予感を感じているのだろう。Budsとは耳栓のことだが、耳栓によってリンク(Link)するのはネットワークサービスと現実の世界。この2つをリンクさせるデバイスとして、常時、耳に装着して使うオーディオ機器を、ソニーは提案している。

photo ソニーが発売した「LinkBuds」。耳をふさがない構造が特徴だ=画像はソニー提供

第二世代に突入し始めたヒアラブル機器

 「いやいや、そうはいっても、完全ワイヤレスステレオ(TWS)といわれる、左右が独立したワイヤレスイヤフォンの一種ですよね?」という方もいるに違いない。その通りLinkBudsはTWSだが、ただのイヤフォンに閉じず、新しい提案をしている。

 LinkBudsはイヤフォンである以上に、ヒアラブル機器なのである。「ヒアラブル? 一体それは何?」と思うかもしれないが、数年前に流行しそうで流行しなかった“惜しかった”新製品のジャンルである。

 技術的に未成熟であれば普及せず、ビジネスとしても成立しないが、技術的にも商品企画のまとめ方の面でも洗練が進めば、一気に普及が始まり、さまざまなサービスが対応することで、より手放せないジャンルの製品として定着していく。

 スマートウォッチなどは、まさにその典型的な例だ。

 初期のスマートウォッチは、たった1日分のバッテリーももたず、デザインは洗練されず、機能も限定的で「何に使えばいいのか分からない」オモチャのような製品もあった。いや、当時はオモチャとまでは感じていなかったが、目新しさから「このぐらいでも使えるのではないか」と、評価が甘くなっていたことは否定できない。

 しかし今日のスマートウォッチは性能、機能ともに大幅に向上した。使いやすさの面でも、小さな画面と限られたインタフェースながら、スマートフォンのパートナーとして確たる製品ジャンルを確立した。

 ファッションとしての腕時計ジャンルを破壊するほどではないが、シンプルな情報ツール、あるいはスポーツ用途として捉えるとき、スマートウォッチは腕時計を超える価値、機能を提供するまでになった。

 技術の進歩だけではなく、情報をどのようにユーザーに通知するか、どのように表示し、ユーザーの反応をどのように受け取るのかなどについて、用途ごとに使われ方が確立してきたことも大きい。

 メーカーの開発者だけではなく、ユーザー、アプリ開発者が新しい製品ジャンルについて、それぞれの理解を含め解釈を加えていくことで製品に深みが出てきたという側面もあるだろう。同じように理解が深まることでヒアラブル機器も飛躍しそう、というところにやってきたと思う。

LinkBudsが“快適イヤフォン以上“である理由

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