変革の財務経理

本社共通費の配賦方法 できるだけ工数をかけない方法は?管理会計Q&A(2/2 ページ)

» 2022年03月23日 07時00分 公開
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(2)表計算ソフトからの脱却

 共通費を配賦する場合、いわゆる表計算ソフトで配賦計算が行われていると思われます。しかし、このような表計算ソフトには、以下のような問題があります。

  • 【1】壊れやすい
  • 【2】属人化しやすい
  • 【3】共有しにくい
  • 【4】重くなりやすい
  • 【5】急に使えなくなる

 これらについて少し説明します。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

【1】壊れやすい

 配賦する勘定科目を細かくしたり、新しい勘定科目が発生したりすると、前年までに使用していたシートに「行挿入」や「列挿入」などをする必要があります。また、使わなくなった勘定科目を削除することもあります。

 画面では見えていない部分で集計などが行われていると、挿入や削除をしてしまったことから、集計部分を壊してしまい、使い物にならなくなる可能性があります。組織変更で部門の新設や統合が発生した場合も同様です。

【2】属人化しやすい

 表計算シートは最初に作った人は、どこでどのような計算をしているのか、追加や修正は何に気を付ければ良いのかが、自分の頭に入っているので問題ないように思われますが、時間がたつと、どうしてこのような表にしたのかが分からなくなることもあります。

 さらに、人事異動で、最初に表計算シートを作成した人がいなくなると、新しい配賦担当者がその表計算シートを理解することはとても難しいのです。結局、新しい配賦担当者が、一から表計算シートを作らなければならなくなることも少なくありません。

【3】共有しにくい

 表計算シートは、作った人は当然理解できますが、見せられてもすぐに理解することは簡単ではないことが多いでしょう。

 経理部門で作成した配賦シートを見せられた現場部門の人々は、とてもわかりにくく、見た瞬間にストレスを感じ、不愉快な思いになることもあるでしょう。

 説明してもらわないと理解できない資料は、お互いに非効率の原因になります。

【4】重くなりやすい

 これは、配賦対象の勘定科目の数や配賦先の部門の数によります。

 配賦対象の勘定科目の数や配賦先の部門の数が多い場合、表の列と行が膨大になり、計算式の数も必然的に増加して、ファイルのサイズがとても重くなる傾向があります。

サイズの大きなファイルは、開くのにも時間がかかり、作業を始めると同時に待ち時間が発生します。

 また、ファイルを閉じる際にも時間がかかり、「保存」してもすぐに次の作業を行うことができなくなるなど、業務の非効率を招きます。

【5】急に使えなくなる

 表計算ソフトを自社開発している会社はほとんどないでしょう。一般には、大手ベンダーが開発・提供している表計算ソフトを利用していることと思います。従って、利用者が望んでいないバージョンアップや仕様変更が行われることがあります。

 更新後に、全体のデザインや色やフォントなどが、いつの間にか変わってしまうことを経験された方は少なくないでしょう。

 デザインなど、機能とは関係のない変更であれば業務上、問題ないのですが、計算式やマクロなどが、更新後に使えなくなることもあります。そうすると、そういった計算式やマクロを組み込んでいた配賦計算シートが、突然使えなくなります。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

(3)表計算ソフト以外の配賦計算ツール

 共通費を配賦することに特化した仕組みで、導入実績があるものはあまり見受けられません。しかし、財務会計システムや原価計算システムの機能の一つとして、共通費を配賦する機能を備えているシステムがあります。ここでは、例として以下の3つのツールをご紹介します。

【1】J-CCOREs

 J-CCOREsは、JFEシステムズがクラウド基盤上に構築・提供している、生産管理システムから独立した原価計算・原価管理ができるサービスです。

 部門間配賦は連立方程式を採用し、階梯式配賦のように配賦の順番を意識することなく、費用を「どの部門から、どの部門へ、どのような基準で」という設定だけで、部門間で相互に配賦できます。製品別配賦は費目ごとに配賦基準を設け、配賦パラメータも設定可能です。

【2】EXPLANNER/Z

 NECが提供する「EXPLANNER/Z」は、販売・生産、原価、債権、債務、会計といった、企業が持つ情報をつなぎ合わせるERPシステムです。このうち原価管理システムでは、配賦計算含む原価シミュレーションができます。

 配賦計算では、配賦基準値や配賦ルールを設定し、連続配賦法による多段階配賦ができ、費目別計算により、共通費を現場部門へ配賦できます。

【3】SuperStream-NX 統合会計

 「SuperStream-NX 統合会計」は「一般会計」「管理会計」「支払管理」「債権管理」「経費精算管理」「固定資産・リース資産管理」の機能を統合し、オンプレミスでもクラウドでも利用できるようにしたものです。スーパーストリームが開発しています。

 経費などの実績データを各部門に配賦できます。配賦基準は、固定比、残高比、統計比、固定額の4種類に対応しており、期中での設定率変更も可能です。多段階配賦にも対応しています。

(4)まとめ

 繰り返しになりますが、あくまで「配賦の基準や設定をシンプルにすること」が最も重要です。その上で(3)で挙げたようなツールを使うことで、現場負担の削減や効率化を実現し、表計算ソフトの課題も克服できるでしょう。

 まず、皆さんが現在使用している会計システムや原価計算システムに、配賦計算機能があるかどうかを、マニュアルやサポート窓口に確認してみましょう。

次回予告(さらなる疑問)

 配賦をシンプルなものに改善して、ツールを導入して効率的で安全な配賦が行えるようになることは理解できました。しかし、現場部門からの不平・不満がなくなることはないと思います。そして、納得が得られない配賦を続けることには、どうしても前向きになれません。

 配賦していない会社はないのでしょうか。もしあるとすれば、そういった事例では、どうして配賦をしなくても良いのでしょうか。

著者紹介:中田 清穂(なかた せいほ)

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株式会社Dirbato(ディルバート)公認会計士

青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社を経て、株式会社ディーバを設立。連結経営システムDivaSystemを開発し事業を展開。導入実績400社を超えた、上場1年前に後進に譲り独立。

財務経理の現場と経営との関連にこだわり、課題を探求し、解決策を提示し続ける。財務経理向けにサービスを提供する業者へのコンサルティングも実施。

現在、株式会社Dirbato(ディルバート)で財務経理DX事業責任者として活動中。

https://www.dirbato.co.jp/news/20210330.html


著者紹介:中司 年哉(なかつか としや)

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株式会社Dirbato(ディルバート)

コンサルティンググループ 財務経理DX事業統括責任者 シニアマネージャー CISA(公認情報システム監査人)CIA(公認内部監査人)CGEIT(公認ITガバナンス専門家)

パブリックセクター(地方公共団体、独立行政法人など)、金融/製造/サービス業を中心に事業継続計画(BCP)、システム監査、情報セキュリティ監査、認証局監査、内部監査体制構築支援、導入支援、内部統制構築支援、ISO(9001、20000、27011)認証取得支援などのプロジェクトに従事。そのほか、個人情報保護対策構築支援、脆弱性検査、調査研究などについても複数経験。現在、株式会社Dirbato(ディルバート)で財務経理DX事業の統括責任者として事業企画、プロジェクト推進に携わる。

https://www.dirbato.co.jp/recruit/member/nakatsuka.html


著者紹介:山城 玲 (やましろ れい)

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株式会社Dirbato(ディルバート)

コンサルティンググループ シニア・コンサルタント 財務経理DX事業メンバー

大手総合エレクトロニクスメーカー会社を経て株式会社Dirbatoへ参画。製造業、小売業、通信業など幅広いクライアントにおいて、システム開発・導入のプロジェクト推進に携わる。またRPAやBIツール、プロセスマイニングを用いた業務分析/業務改善等のDX推進プロジェクトにおいて企画構想フェーズ、実行フェーズ等の支援を行っている。


著者紹介:林 碩(りん せき)

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株式会社Dirbato(ディルバート)

コンサルティンググループ シニア・コンサルタント 財務経理DX事業メンバー

リーガルDX事業立ち上げ、AIコンサル事業立ち上げ、IT戦略の立案やシステム化構想、マーケティング・プロモーション、業務プロセス改革、システム導入コンサルなどについて複数経験し、NWマイグレーションプロジェクトにも携わる。


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