「全社でDXやっています」と答えざるを得ない、日本企業の“罪な構造”IPA×ITmedia DX対談企画(第1回)(2/4 ページ)

» 2022年06月01日 07時00分 公開
[ITmedia]

「DXやっています」と言ってしまう、日本企業の”罪な構造”

内野 また、欧米の企業と日本企業には、明確な違いがあるのでしょう。日本企業の場合は、基本的に縦割りです。周知の通り、ITもずっと昔、90年代までは内製が基本でしたけれども、オープン化の流れやシステムの複雑化、コスト削減トレンドがあり、開発・運用を外部に出すようになりました。背景には「ITとIT部門はビジネスコアではない」という経営層の認識があり、これがいまだに尾を引いています。

 無論、こうした外注化の流れには当時なりの合理性があったと思います。しかしテクノロジーが大幅に進化し、ITとIT部門の役割が変わった今となっても「当時の認識のまま」ではまずい。ビジネスがデジタル前提になったのに、多くの日本企業はデジタルの主導権を持てていないわけですから。

 それに対して欧米企業の場合は、IT人材を多く雇用していますし、内製率が高い。この大きな差が生産性にも影響していると思います。

 さらにいうと、日本の場合、国が何か「こうしようぜ」というと、企業側も「やっています」といった方が格好いいと思ってしまう癖があるんじゃないかなとも思うんです。

内野 周囲と歩調を合わせなければいけないといった同調圧力も強いですからね。また、「やっています」といわないと、上から怒られるような企業文化もあるのかもしれないですよね。これはDXに限らないかもしれませんが。

 DXはそうしたものとは逆の考え方じゃないですか。だからすごく何か“罪な構造”といいますかね。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

内野 やれと言われてやるような取り組みではないですものね。それに、よくいわれるように正解がない時代なのでトライ・アンド・エラーが必要なんですが、日本企業はエラーができないんですよね。失敗すると立場を追われたり、給料が下がったりしてしまう例も多いので。致し方ない部分もあるのですが、短期的な成果も求められます。

 このことは経営層の理解があるかどうか、という話にもつながるのですが、おそらく冒頭の21.7%という数字にも、そうした事情が内包されているのではないかと思います。21.7%は「DXをやっています」と答えざるを得なかった、あるいは「上からやれと言われた“DXプロジェクトなるもの”に取り組んでいる」……と見るのがしっくりする気がしなくもないですね。

 ただ、日頃、話を聞いていると、各現場には固有の事情があり、とても真摯(しんし)に課題に向き合われている方が多いと感じています。オブザーバーに過ぎないわれわれにとって取材対象は常に尊敬の対象ですから、「気持ちが分かる」とまではおこがましくてとても言えませんが、あえて俯瞰的に想像するとそんな感じなのかなと……。

CDOが“デジタル小間使い”になっている

 肌感覚でいうと、Web企業やスタートアップはまずまずで、従来型の企業はあまり進んでいないんじゃないかという気がします。有名なWeb企業の社長とお話をすると、自社の中で“クラウドっぽいもの”を内製しているし、一方でパブリッククラウドも使っている。そして、それらをきちんと社長が理解しているんですよね。ITシステムについて、社長から「ここが弱点」「今後はこうしていかなければいけない」といったことがスパっと出てくるのは、ごくごく少数だと感じますね。

内野 従来企業の場合、やはり戦略にITが組み込まれていないといいますか、経営にとってITが“特殊なもの”であり続けているのでしょうね。うちの会社のシステム構成が今どうなっているのか、どのシステムにどのくらいコストがかかっているか、というのをきちんと把握している経営層は非常に限られると思います。現場でも、システム全体がどうなっているか分からないというケースも多いですから。

 なので最近、よく指摘されているのが、システム全体を棚卸しをして、何が本当に必要かを考えることです。例えば、どの部分にパブリッククラウドなどを使い、どの部分を自社で構築するのか──これらを切り分けて、投資配分を目的や状況に最適化していきましょう、という考え方です。ここまでできている会社は少ないですね。ITの話ではなく、完全にビジネスの話なのですが。

 そうですね。企業のIT担当、CIO(最高情報責任者)、CDO(最高デジタル責任者)のうち、ITのことに詳しい、あるいはそうした仕事に就いて長いという方はどれくらいいるのでしょう? 日本は部内、部門をまたいだローテーションがあるので、すごく詳しい人がそうしたポジションになっている感じがしないことが多々あります。

内野 確かに日本はまだまだCIO、CDOが少ないのではないか、と感じています。CDOの役割を果たす人材を社外から連れて来ても、うまく定着しない例も見受けられますよね。

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