「全社でDXやっています」と答えざるを得ない、日本企業の“罪な構造”IPA×ITmedia DX対談企画(第1回)(1/4 ページ)

» 2022年06月01日 07時00分 公開
[ITmedia]

 21.7%──。これは「全社的にDXに取り組んでいる」と回答した日本企業の割合です。情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX白書2021」によるものです。

 この数字は少ないでしょうか? それとも多いでしょうか? IPAの境真良参事(社会基盤センターDX推進部長)は「この数字を見て『多いな』と思ったんですよ」と話します。とはいうものの、日本企業の現状を手放しに評価しているわけではなく、むしろ懐疑的です。

photo 日本企業の21.7%が「全社的にDXに取り組んでいる」と回答=「DX白書2021」より

 多くの企業がDXを目標に掲げているにもかかわらず、まだまだ成果は限定的ではないか──。アイティメディアが運営する、経営者・事業リーダー向けのDX専門メディア「ITmedia DX」でも、日々の取材を通じてこうした印象を抱いています。

 なぜ、日本のDXは進まないのでしょうか。日本企業がDXで成果を挙げるために、どんな視点が欠けているのでしょうか。こうしたテーマをもとに、IPAの境氏とITmedia DXの内野宏信(編集委員)が対談しました。すると、その内容からは日本企業が抱える“罪な構造”が見えてきたのです。

photo 左からIPAの境真良参事(社会基盤センターDX推進部長)、ITmedia DXの内野宏信(編集委員)

21.7%は少ない? 多い?

 この数字をどう見るかですよね。21%は全社的に取り組んでいて、34%は取り組んでいないというわけです。僕は、この数字を見て「多いな」と思ったんですよ。

内野 DXをどう捉えているかにもよると思うんです。例えば@IT編集部の読者調査で「クラウドネイティブに取り組んでいますか」と質問したアンケート結果があるんですが、こちらも20%以上が取り組んでいると答えていました。日頃取材したり話を聞いたりしている限りではそんなわけないだろうと思うんですけど……。クラウドネイティブの具体的な取り組み内容を示した上で質問していたらもっと少なかったのではないかと思います。この結果も、DXが曖昧(あいまい)に捉えられているのではないかと思いますね。

 私自身、産業のDXを推進するIPAの部署にいて思いますが、「DXで社内を変革できていますよ」といえるためには、相当なハードルがあります。

 DXの前と後では、企業の働き方をはじめ、イメージがガラッと変わるぐらい大きな変化があるはずです。そんなに変わった企業が20%以上もいるのかなと。もしそうだったら、今ごろ大ニュースになっていると思います。例えば、新卒採用がぐっと減りましたとか、中途採用の市場が大きく膨らんでいますとか……。そういう感じにはなかなか見えないんですよ。仰る通り、DXの捉え方が違うんだろうと。

内野 これが本当なら日本の労働生産性はもっと上がっていると思いますし、少なくともG7で最下位ということはないと思います。デジタルツールを入れました、紙の業務をデジタル化しました、といったいわゆるデジタイゼーションに取り組んだだけで「うちの会社はDXをやっています」と言ってしまう傾向が強いのかもしれませんね。

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