“大人様ランチ”に“ラムネ菓子”……「大人向け」リメイクで大成功する企業が増加のワケ 古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2022年06月24日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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コンテンツビジネスにも「大人向けリメイク」は有効

 さて、ここまでは食品について取り上げたが、コンテンツビジネスについても「大人向けアレンジ」は有効である。

 最近で、最も20〜30代の世代を沸かせた大人向けアレンジの例といえば「ポケットモンスターダイヤモンド・パール」のリメイク作だろう。

ポケモンWebページより

 これは、06年にニンテンドーDS向けのソフトとして発売されたポケモンゲームの金字塔ともいえる作品で、当時は小学生や中学生を中心に、国内で582万本、世界で1767万本という絶大な人気を誇っていた。

 06年の発売から15年が経過した21年11月に、「ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール」としてリメイクされることになる。そして、やはりこのリメイクにいち早く反応したのが、当時の小学生〜中学生世代であった20〜30歳代の年齢の消費者である。リメイク作は今年2月時点で1397万本と前作に迫るレベルまでヒットした。

「大人向けリメイク」は事業の長期投資?

 大人向けのリメイクは事業の長期投資ともいえる。短期的な目線でいえば、コンテンツを作ったり、商品開発を行ったりするにあたって購買の決定権が小さく、自由に使えるお金も少ない小中学生のような世代を第一のターゲットに据えるのは勇気のいる選択だ。

 しかし、「懐かしさ」という誰しもが有する感情とそれに伴う購買行動は、幼少期の体験に基づくことが多い。成長した消費者は、当時と異なり自身で購買の決定権をもっており、自由にある程度の金額を使える所得も有していて優良なターゲット層へと変貌する。

 そうすると、初めから大人向けの商品をリリースするよりもはるかに効率的にマーケティングを行うことができ、顧客層への浸透も早い。時には、森永製菓のラムネのように、それ以外の商品を数多く扱っている上場企業でも業績に一定の変化をもたらす存在になり得るのだ。

 そして、成長した顧客に子供がいる場合は、子供に商品を買い与えていくことによって次の世代にも商品やコンテンツが浸透していくという副次的な効果も期待できる。

 そのように考えると、初めは大きな利益にならないかもしれない子供をターゲットとした商品展開は、中長期的には大きな果実となって自社に還元されていくことになるかもしれない。

 かつやの事例では長年にわたって「お子様ランチ」を提供していたわけではなく、わたしたちが一度は食したことがある「お子様ランチ」を大人向けに再現したものである。大人向けアレンジは何も自社の商品を対象にしなくても良いのだ。

 そんな中で、商標登録されていない「お子様ランチ」という普遍的な概念に目をつけたかつやの事例は、事業を長期存続しなければならないリスクを軽減した状態で「大人向けリメイク」を成功させた点で効果的なものであったといえるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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