「通り道」の変化が、経済だけでなく安全保障にも大きな影響を及ぼすという地政学の想定は、当然ながら日本にも当てはまる考え方だ。
すでに紹介したパラグアイの例は、新たな陸上の交易ルートができることによる期待感というポジティブな変化についての話であったが、日本の場合はその逆に、すでにある海上の交易ルートの安全に対する脅威が迫っている。
その代表的なのが、想定される「台湾有事」において中国に妨害される可能性のあるシーレーンの話だ。
ご存じのように、日本はその石油の80%を中東から運搬しており、それ以外の物資や資源もことごとく船を使って運ばれてくるものばかりであり、とりわけ重量でいえば海外との貿易の99%を海運に頼っている。
ところが8月初旬に米国のナンシー・ペロシ下院議長による台湾訪問後、中国の人民解放軍が軍事演習と称して日本の排他的経済水域(EEZ)に5発のミサイルを打ち込んだ時からも分かるように、有事の際には、台湾周辺や南シナ海などが中国によって封鎖されたり通航が妨害される可能性が高い。
交易路という「通り道」が無理やり変化させられるような事態は、経済面からの研究もされているが、そもそも地政学の分野で長年注目されてきたことである。
こうしたことから、日本も地政学的な影響とは無縁ではないことがお分かりいただけるはずだ。世界では発展途上国を中心に日々、道路など物流インフラの整備が進んでいる。今後も各国でパラグアイの新ルートのような交通革命が起きる可能性があり、業界関係者の注目を集めそうだ。
1972年9月5日、神奈川県横浜市生まれ。国際地政学研究所上席研究員。
2002年ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)地理・哲学科卒業。11年レディング大学(英国)大学院戦略研究学科博士課程修了、博士(戦略学)。地政学や戦略学、国際関係などが専門。レディング大院では戦略学の第一人者コリン・グレイ博士(米レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事した。現在は政府や企業などで地政学や戦略論を教える他、戦略学系書籍の翻訳などを手掛ける。
著書に『地政学:アメリカの世界戦略地図』(五月書房)、『世界を変えたいのなら一度武器を捨ててしまおう』(フォレスト出版)、監修書に『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)、訳書にクライブ・ハミルトン『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)、『ルトワックの“クーデター入門”』(芙蓉書房出版)など。
ニコニコ動画やYouTubeで地政学や国際情勢に関するニュース番組「地政学者・奥山真司の『アメリカ通信』」(毎週火曜日午後8時30分〜)を配信中。
Twitter:@masatheman
ブログ:「地政学を英国で学んだ」
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