修行僧の方々が禅語に参ずるのは、「悟り」を得るためですが、俗人である私たちは「悟り」よりも、目の前の問題を解決する方が先決だと考えます。こんな姿勢の私たちにも、この禅語は、ヒントを与えてくれます。
足元の乱れから心の動揺に気が付くことも、問題に正しく取り組んでいくための前提条件になりましょう。しかし、「脚下照顧」をそれだけに留めるのはもったいないように思われます。
目の前の問題(庭前柏樹子)は、起こったのではなく、自分たちの側にも何か原因があってそこに存在していると捉えたらどうでしょうか。そこからは、解決に立ち向かうヒントと意欲が湧いてきます。
そのためには、問題自身を自分の側(脚下)から、よく見つめる必要があります。足を見つめるのは、自分の足が向いている方向が、自分が進むべき方向であり、進んでいくのは自分の足であるからだと考えたらいかがでしょうか。
さらに、問題を解決しようとする際に、再発防止策までを包み込んだ理想的な解決へと問題をいきなり引き上げるのではなく、まずは、今すぐに着手可能な具体策を見つけるように心掛けることの大切さも、この言葉は教えてくれます。
「脚下照顧」は、毎日の小さな気付きから、緊急事態への対応までを可能にしてくれる言葉です。
田中仙堂 1958年、東京生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。大日本茶道学会会長、公益財団法人三徳庵理事長として茶道文化普及に努める傍ら芸術社会学者として茶道文化を研究、茶の湯文化学会理事。(本名 秀隆)。著書に『茶の湯名言集』(角川ソフィア文庫)、『お茶と権力』(文春新書)、『岡倉天心『茶の本』をよむ』(講談社学術文庫)、『千利休 「天下一」の茶人』(宮帯出版社)『お茶はあこがれ』(書肆フローラ)、『近代茶道の歴史社会学』(思文閣出版)他。
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