共働き世帯が7割近くを占める世の中になっても、妻の賃金は夫より低くて当たり前。
正社員の男性の平均年収は550万円なのに対し、女性は384万円と、200万円もの違いがあります。なぜ、こんなにも違いがあるのか? 男性より女性の方が能力で劣っているわけじゃないのに、いったいなぜ?
答えはシンプル。「性別役割」の根深さです。長年、共通理解として刷り込まれた社会の価値観は、無自覚の価値観として個人の心の奥底に残り続けます。いまだにお茶汲み、ゴミ捨ては女性社員の仕事と勘違いしている輩はいますし、転職に成功した女性に、「いいよな? 女は。失敗したら結婚すればいいんだもんなぁ」などと、セクハラまがいのレッドカードトークをする化石のような男性もご健在です。
山越さんの心の奥底にある「俺は一家の大黒柱、社長だぜ!」という自負心が、妻の給与明細でこっぱみじんに砕け散った。昭和の価値観は竹の根のしぶとさをしのぐ、おそろしい代物なのです。
「妻の稼ぎと夫のストレス」の関係を明かした、おもしろい研究があります。日本同様性別役割がしぶといアメリカの6035世帯を、15年間にわたって追跡したデータを使い、妻の相対所得と夫の心理的苦痛の関係を明かした研究です(厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書」)。
妻が専業主婦で夫が唯一の家計の担い手の場合、夫は「家族を養わなくてはいけない」というプレッシャーからストレスを感じていました。しかし、妻が働いてお金を稼ぐにつれて夫のストレスは徐々に低下。妻の稼ぎが夫の家計負担感を漸減させることが分かりました。ところが、です。妻の世帯総収入が40%を占めた時点で、夫のストレスレベルに変化が起こります。それまで下がり続けていた夫のストレスが一気に上昇に転じたのです。
つまり、「夫6:妻4」の稼ぎが夫婦円満の黄金比。「おんぶして抱っこ妻」はいやだけど、妻におんぶされるのも耐えられない。理想はあくまでも「副社長妻」。2歩下がって社長を支えてほしい。自分の立場をわきまえてほしい。3歩から2歩へと前進したものの、性別役割問題は実に根深い問題なのです。
女性からすれば、「いったいいつになったら女性の自立を認めるつもりなんだろう?」と苦言を呈したくもなります。「そんなこと思っているから、女性活躍後進国なんだよ?」と。
しかし、しかしです。なんと件の調査では「時代の新風」を感じる結果が、確認されているのです。
結婚したときから妻の稼ぎが夫を上回る“格差婚”では、「妻の稼ぎと夫のストレス」の間に関係性は認められませんでした。妻がいくら稼ごうとも天下泰平です。
「格差婚」という言葉自体、性別役割の象徴ですが、当人たちは世間より3歩前を歩いている。ジェンダーフリーとは、女性だけでなく、夫の心を解放するやさしい概念です。
下克上する妻が増えれば、案外夫たちが住みやすい世の中が到来するかもしれません。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング