小売業の歴史も、商品・サービス開発の軸も、タイパが発想の基になっていることをみなさんも実感していただいたと思います。23年以降もこの流れは続いていくことでしょう。
ただし、私自身は正直いって少し疲れる感じもあります。
タイパは特に「時短」だけを指すものではありませんし、「スピード」「早さ」「手軽さ」だけを求めるものでもありません。長い時間をかけても、その時間に見合うだけの価値があれば、それはタイパが良いということになります。
一方、「追いトップガン」という言葉が生まれたように、人気作品『トップガン』のために映画館に何度も通う人もたくさん存在します。
つまりタイパには、「時間をできるだけ短くすることで得られるタイパ」と「ある程度の時間をかけて得られるタイパ」の2種類があります。
横軸が「目標達成」「目標未達成」、縦軸が「時間をかけない/手っ取り早く」「時間をかける/ゆっくりと」とすると、以下のような4象限マトリクスができます。
現在注目されているタイパは、象限1の「できるだけ早く、無駄をなくして、効率的に、余計な時間や無駄な時間を過ごさずに目標達成する」タイプのタイパです。できるだけ近道したい、手っ取り早く目標に近づきたいのです。
もっとゆっくりとじっくり時間をかけて、時には失敗しながらも自分の目利き力を高めたり、経験値を増やしたほうが後で役に立つ部分は必ずあります。
しかし、それだけ時間をかけて、失敗したり目標達成できなかったとしたら、その失った時間への後悔が半端ないのです。そんな先輩たちを見てきたし、そうした失敗をしたくないというのがタイパを求める根底にはあるようです。
「ハズレを引いて時間を無駄にしたくない、失敗したくない」
Z世代の若者たちは特に、このような合理的な考え方をしています。
良い時代を経験していない世代だからこそ、このような発想が強まっているとも言えます。
ただし、今後は象限3の「ゆっくりと目標に近づいていく」タイプのタイパにも価値を見出してほしいと私は考えています。ゆっくりさ、丁寧さ、スローの価値が高まり、大切なことには時間をかけて目標達成していくプロセスにこそ価値があるということを実感していけば、さまざまな価値観が共存できるようになり、幅が広がると思います。その際に得られる達成感は、また違ったものがあるということに気付く人も多いのではないでしょうか。
タイパはこれからもさまざまに形を変えてはいくものの、必須のキーワードとして消費トレンドを作っていくことでしょう。引き続き研究していくべきテーマです。
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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