“時短したい”若者の「タイパ」信仰が中高年にも!? 2023年も「倍速消費」がさらに拡大しそうな理由動画を早送り(3/4 ページ)

» 2023年01月03日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

タイパは目新しい概念ではない

 タイパを念頭においた商品やサービス開発が23年以降の企業戦略のカギを握ると私は考えています。しかし、実はタイパは今に始まったものでありません。以前から世の中の変化というのは「タイパを重視する消費者の嗜好の変化に合わせて進化してきた」歴史なのです。特に、流通小売業の業態開発は、タイパ消費を体現したものです。それを「マクネアの小売りの輪」を使って説明しましょう。

マクネアの小売りの輪

 1957年、米国のピッツバーグ大学で開催されたシンポジウムの席上で、マルコム・P・マクネア教授は「小売の環の理論(ホイール理論)」を発表しました。それまでの米国の流通、小売業は「良い品を安く」というマスマーケティングの風潮の中で、経費節減による合理化や省力化をすすめてきました。

 それにより粗利益率を下げ、価格訴求を原動力に新しい業態と経営システムを発明しながら発展してきたのです。事実、1830年頃に登場したスペシャリティストア(専門店。ただし日本のそれとはやや異なる)以後、1988年頃に登場したカテゴリーキラー、メンバーシップホールセールクラブ(ウェアハウスクラブともいう)、そしてファクトリーアウトレットストアに至るまでの新業態は、常により低粗利で広域商圏を対象にしながら成長を続けてきたといってよいのです。

 しかしこのマクネアの小売りの輪に、コンビニ、オンラインストアを加えると、別の視点が出てきます。それは、「新業態は常に消費者のタイパ重視の嗜好に合わせて生まれてきている」という点です。

 専門店として一つの商品しか取り扱っていなかった業態から、総合的に品ぞろえして販売する百貨店というスタイルが生まれました。一つ一つを買い回らなければならなかった時代から、ワンストップであらゆる物が買える業態の登場です。まさに百貨店はタイパの良い業態だったのです。

 その中で、衣料品と住関連商品に特化させたGMSが誕生しました(米国のGMSは基本的に食品を取り扱わない)。大衆にとって、より安く、必要な物を買える業態としてGMSは一世を風靡(ふうび)しました。その後、ディスカウントストアやホームセンターが生まれ、さらに安く、手軽に日用品が購入できる業態として広がりました。

 さらに、米国でリージョナル(広域商圏)型ショッピングセンター開発が進み始めると、カテゴリーキラーと呼ばれる玩具や家具、衣料品、家電、釣り具、カー用品といった単一カテゴリーの大型専門店が増えていきました。消費者の生活が多様化すると共に、専門特化した品ぞろえで、かつ低価格を実現したカテゴリーキラーは非常に利便性が高く、米国ではタイパの良い業態(米国でタイパという表現はないと思いますが)として急成長していきました。

 しかし、消費者の好みはさらなるタイパを重視するようになりました。飲み物や菓子など日常的に購入する商品のために、わざわざ何十キロも離れた大型店まで足を運ぶのは面倒ということから、近所のガソリンスタンド併設のコンビニが重宝されるようになりました。

 そして2000年代に入るとインターネットの拡大とともに、消費者はよりタイパを求めるようになり、店に行かなくてもモノが買えるオンラインストアを利用するようになっていきました。

 このコンビニとオンラインストアという業態は、これまでのように粗利を落として低価格で販売するというやり方を覆し、省力化しつつも高い粗利をあげて、効率的な商売をすることを可能にしました。

 つまり、流通小売業側も、タイパ重視の消費者に、より便利な買い物をしてもらおうと試行錯誤した結果、利益率も良く、タイパの良い新業態を開発したというのが、結果的に今のネット全盛時代をもたらしたといえるのです。リアルからオンラインへの移行は、ある意味、タイパのもたらした成果物といってもいいかもしれません。

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