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トヨタのライバル、フォルクスワーゲンが描く「日本市場でのEV戦略」先行者利益を獲得できるか(1/3 ページ)

» 2023年02月22日 05時00分 公開
[武田信晃ITmedia]

 ドイツの大衆車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)は、同社初のフル電動SUV「ID.4」を発売した。販売台数でしのぎを削ってきたトヨタ自動車の最大のライバルメーカー、VWによる電気自動車(BEV)の日本投入だ。

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 日本でもBEVの機運が高まりつつある中、このタイミングで導入した理由は何なのか。

 フォルクスワーゲン グループ ジャパンのフォルクスワーゲン ブランド ディレクターであるアンドレア カルカーニ氏に、日本市場でのEV戦略を聞いた。

photo フォルクスワーゲン グループ ジャパンのフォルクスワーゲン ブランド ディレクター、アンドレア カルカーニ氏

BEVの世界戦略車が日本に登場

 ID.4は、VW初のフル電動SUVとして2020年に登場した世界戦略車だ。EV専用の新しいアーキテクチャである「モジュラー エレクトリックドライブ マトリックス(MEB)」をベースとし、大容量のバッテリー搭載による長い航続距離と、広々とした室内空間、低重心、リヤモーターリヤ駆動レイアウトなどを特徴としている。これによりダイナミックな運転を可能にした。

 ID.4は、ワールドカーオブザイヤー(WCOTY)主催の「2021ワールドカーオブザイヤー」に選ばれた。そのID.4を22年に日本に投入し、価格は「Lite Launch Edition」を499万円、「Pro Launch Edition」を636万5000円に設定。現在は、航続距離が伸長し「ID.4 Lite 」を514万2000円、「ID.4 Pro」を648万8000円に設定している。

 ホイールベースは「ティグアン」より95mm(ミリメートル)も長い2770mmもある。室内空間は広くなり、直進安定性は高まるものの、逆に旋回機能が低下するのではないかと心配した。

 筆者は試乗する機会があり、道中、クランク状に近い狭い道を走ったが、問題なく曲がることができた。カルカーニ ブランド ディレクターは「良かったです。これはリヤモーター、リヤ駆動だからこそ旋回性がいいのです」と答えた。

 車内で印象的だったのは、メーターパネルが5.3インチのディスプレイだった点で、例えるならスマホがきちんとハンドルの付け根に載せられている感じだった。情報表示の観点から、少し小さいかとも思ったが、運転してみるとそうでもなく、おかげで前方の視認性も良いので一石二鳥と言えそうだ。

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日本は重要な市場 開発部門の代表オフィスを設置

 実は筆者がVWのすごさを感じたのは20年以上前に香港に住み始めた時だ。香港は英国統治下の影響もあり、欧州車や日本車がしのぎを削っていて、タクシーにおいてはトヨタのクラウンコンフォートのシェアが圧倒的だった。

 しかし、ボーダーを超え深センに入ると様相は一変。VWの車があちらこちらで走っており、タクシーでは同社のサンタナしかないのでは思うほどだった。

 VWは早くから中国市場を開拓したこともあり、広州、上海、北京でもその状況はほとんど同じだった。今は他の自動車メーカーが中国市場に力を入れ、中国メーカーも台頭しており、VWのシェアは下がっているものの、それでも大きな存在感がある。

 自動車産業は「100年に1度の変革期」と言われ、販売環境が激変した。まずは日本市場の位置付けについてカルカーニ ブランド ディレクターに聞くと、重要な市場と捉える理由を語る。

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