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「理想のリーダーになれない」と悩む人が知らない、優れたリーダーが「しないこと」河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2023年02月24日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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 例えば、サッカーワールドカップで活躍した日本代表の森保一監督は、前述の3つを備えたリーダーといえます。

サッカー日本代表の森保監督は「明確なビジョン」「貢献力」「批判力」を備えていた(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 目標は「決勝リーグに進出を果たし、ベスト8に入ること」でしたが、森保監督は「われわれのサッカーを通じて日本国民を笑顔にする」「ベスト8という、まだ見ぬ景色を見てもらう」「子どもたちがわれわれのサッカーを見て、サッカーを好きになってもらう」という3つのビジョン、すなわち選手たちに「日本代表としての自覚」と、選手たち自身も子どもの時に「誰か」に憧れてサッカーを好きなった、というストーリーをビジョンに掲げました。

 ピッチでメモを片手に走り回る姿、選手たちへの敬意、サポーターに深々お辞儀をする姿勢──。そんなリーダーだったからこそ、選手たちは勝てない時の批判をモチベーションに変えることもできたし、最後まで決して諦めない、「1ミリの奇跡」のようなプレーが生まれました。

 「Vision」という言葉には「見える化」という意味合いがありますので、「将来のあるべき姿、ありたい姿」をリーダーが自分の言葉にして、フォロワーがその姿をイメージできることがフォロワーを魅了するのです。

一人きりで頑張らないリーダーになるために

 そこで、一人きりで頑張らないリーダーになるために、以下の2つを徹底してみてください。

  • 自分が掲げたビジョンを、「なぜ、今、このビジョンなのか?」という自問自答を繰り返し行う。
  • フォロワーにビジョンを遂行する上で欠けているリソースを考えさせ、そのリソースをどうやったら手に入れられるか? どうやったらフォロワーがアクセスできるか? をとことん考える。

 一番の難問が最後の「批判力」です。多くのリーダーは、フォロワーの批判に「脅威」を抱きがちです。自分を批判したり、自分が思いもつかなかいアイデアを考え出したりする部下は、自己の存在を脅かす“もの”に思えてしまうのです。

 しかしながら、これまで行われてきた実証研究では、優秀なフォロワーほど批判力が高いものの、「優秀なフォロワーは永遠にフォロワーであろうとする」ことが分かっています。

 つまり、自分に対する客観的な評価を受け入れる冷静な判断と、その脅威に耐えられる度量を併せ持ったリーダーだけが、永遠に自分を支えてくれるフォロワーを手に入れることが可能なのです。

優秀なフォロワーは、批判力は高いが永遠にフォロワーであろうとする(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 そして、もう一つ。ほんの一瞬でいいので、リーダーという鎧(よろい)を脱ぎ、フォロワーと「ただの人」として接する機会を設けてください。年下の部下には「自分の娘・息子」のように、年上の部下は「自分のお父さん・お母さん」のように。

 ときに「自分の弱さ」を見せ、ときに「他者に甘える」のを厭わないでください。一人きりで頑張らないで!

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。


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