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「それは君の仕事だろっ、何とかしろ!」からの脱却何ともならない時代(2/3 ページ)

» 2023年03月01日 06時00分 公開
[野町直弘INSIGHT NOW!]
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 以前はこういう原材料価格高騰時でも、価格転嫁は顧客や市場に許容されないため、企業経営者は調達・購買部門に対して「(値上げを受容しないで)何とかしろ」と指示することが多かったでしょう。それに対して、調達購買部門も、値上げを受容しない、値上げ時期をずらす、部分的に認める、など、経営の要請に「何とか対応していた」のです。

 一方で、昨今の供給不足問題ですが、以前であれば、これも経営トップや工場トップは調達・購買部門に対し、「何とか(対応)しろ!」と指示していました。「サプライヤと交渉して、何とかするのが、君たちの仕事だろ!」です。

 以前私が現場でバイヤーをやっていた時に、こういう事件がありました。出図の遅れで、新製品用の部品の納期が、全く間に合いそうにない、という事件です。この時も「購買部門、何とかしろ!」という声があったことを覚えています。そしてこの時は購買担当常務が「私が責任を持って何とかします!」と宣言したのです。その時の購買担当が私でした。

 常務が責任を持って何とかする、と発言されたので、まだ若かった私はどんな素晴らしい解決策があるのだろう、と期待していたのです。しかし、経験のある方は分かると思いますが、工期短縮の検討などは、既に、どこの企業もやっており、細かい工程表とにらめっこしても、短縮の余地など、殆どないケースが多いもの。また、いくつもの工程が並行して走っているので、ある工程の期間を、どうにか短縮しても、他のボトルネック工程が短縮出来ない限り、全体の工期短縮は図れません。

 実際に、その時も、私は部品サプライヤだけでなく、細かな工程短縮の検討のため、金型屋さんや木型屋のおやじまで、打合せに来てもらいましたが、「これ以上の工期短縮は難しい」というのが参加者の意見でした。

 ところが、その場で、常務がお願いしたのは、「うちの仕事を優先してくれないか」だったのです。結局、工期を短縮するためには、他社の仕事の代わりに自社の仕事を入れてもらうしかありません。何とかするというのはそういうことであり、他社の仕事を遅らせて、うちの仕事を優先してもらうことで納期を短縮させるという方法だったのです。

 そこには、何か新しいやり方やブレークスルーなどもなく、単に「(うちの仕事だけ)何とかしてくれ」と常務がお願いしたわけです。ところが、結論としては希望納期に間に合わせることができました。

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