中村: 今後、エッジAIカメラを使った分析として考えていることはありますか。
檀: 階をまたいだお客さまの回遊分析です。例えば大宮店では、メインの入口がある2階にいたお客さまが、その後どれだけの時間をかけて地下の食品売り場を訪れたかを分析する予定です。
仮に2階から入り、すぐに地下の食品売り場を訪れたなら、それが来店の動機だと分かりますし、時間がかかった場合は他のフロアの“ついで”とも考えられます。お客さまが店を訪れた動機を把握することで、2階入口に設置しているデジタルサイネージの活用にも生かせると考えています。食品売り場に直行するお客さまが多い時間帯は、それに合わせた表示にするといった打ち手ができるはずです。
中村: 階をまたぐお客さまの回遊分析には、FaceIDによる技術(ReID)が使われています。顔の特徴点をベクトルデータ化してIDを振り、同じ顔の特徴を持つ人物が各フロアのカメラに映ったら同一人物と識別。各人の回遊状況を把握しています。
このような分析により、データに基づいた施策を用意できれば、百貨店にとって重要な店舗競争力になるのではないしょうか。
檀: その上で私たちが目指すのは、百貨店がプロパティ・マネジメントを行うことです。人流データをわれわれの分析材料にするだけでなく、テナントの方にサービスの一環として提供する。あるいはデータを基に、売上向上につながるイベントや販促を考え提案する。そうして資産価値を上げていくのが理想です。
さらに、こういったデータやそれに基づくコンサルティングをテナントや他の施設に提供できれば、新しい価値にもなります。加えて、最終的にはお客さまが家を出るところから来店するまでのルート、店内の回遊状況、最後に購入したものまで、カスタマージャーニーをつなげて分析できたらと考えています。
中村: そこまで長いスパンで考えていただけるのはうれしいですね。カスタマージャーニーを分析するにはたくさんの協力が必要ですが、皆さんでスクラムを組んで、よりよいものにしていきたい。それはきっと人々の満足や世の中への貢献にもなると思います。
檀: 大切なのは、こういった分析がお客さまの体験向上につながることです。買い物が楽しくなったり、施設内で行動しやすくなったりするためにデータがあるはず。その考えのもと、これからも取り組みを進めていきたいですね。
本記事から考えるエッジAIの活用ポイント
1今まで捉えきれなかった膨大なデモグラを定量で測る
2データに基づいた施策を進め、その効果測定も行える
3イメージとは違う人流の実態を基に店舗を設計できる
4これらのデータを使い、百貨店がプロパティ・マネジメントを行える
Idein(イデイン) CEO 中村 晃一
1984年生まれ、岩手県出身。東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻後期博士課程にて、スーパーコンピュータのための最適化コンパイラ技術を研究。AI/IoT技術を利用して物理世界をデータ化する事業にチャレンジしたいという思いから、大学を中退し2015年にIdeinを設立。18年には半導体大手の英ARM社から「ARM Innovator」に日本人(個人)として初めて選出された。プログラミング・ものづくりと数学や物理などの学問が好き。趣味でジャズピアノをひく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング