「物価の優等生」は死語に!? エッグショック後も、価格が高止まりしそうな理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/5 ページ)

» 2023年03月15日 08時47分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

卵不足の影響は約半年続く?

 有力な流通関係者に取材したところ、匿名を条件に現況を次のように語った。

 ニワトリは、大きく分けて卵を生産するための採卵鶏と、肉用のブロイラーなど肉養鶏に分かれる。採卵鶏は1億3000万羽ほどが全国で飼われているといわれており、2月末でそのうち約1割の1370万羽ほどが殺処分になった。

 たかが1割と思われるかもしれない。しかし、21年に高病原性鳥インフルエンザが流行しており、全ての養鶏場が元の羽数に回復したわけではない。餌付け羽数は4.5%くらい減少している。従って、コロナ前に比べれば1割を超える数の採卵鶏がもともと減っていた。

 度重なる高病原性鳥インフルエンザの流行ばかりでなく、餌の価格の高騰で、卵を売ってももうけが出ない状況に辟易(へきえき)し、意欲が減退している生産者も多いという。

 現状は、殺処分の急増により、ニーズは変わらないにもかかわらず、供給が減ったために商品不足が起こっている。日本人は卵が好きな国民で、IEC(国際鶏卵委員会)によれば、21年における日本人1人あたりの年間鶏卵消費量は337個。これはメキシコの409個に次いで世界2位だ。

 高病原性鳥インフルエンザにかかった鶏舎では、飼っていたニワトリを全て殺処分し、餌も全部廃棄する。消毒をして、本当にウイルスがいなくなったのかを検証するために、まずは検査用のおとりの鶏を入れて、最低40日間、鳥インフルエンザにかからないかをチェックする。

 その後、本格的にニワトリを入れて育てることになる。殺処分から次の雛を導入するまで3〜4カ月、さらには雛が成長して卵を産み始めるまでは、半年かかるとみなければならない。

 その間、生産者は保険金が出るなど、生活の保証はされているものの、卵を販売して収入を得ることはできない。

 卵不足の影響は、最短でも半年くらい続くと見なければならない。

安い卵はもう限界

 卵は生鮮食品であり、一部加工食品で輸入はあるもの、ほとんどが国産である。

 従って、海外からの調達は期待できない。

 また、厚労省によれば、今シーズンの海外の高病原性鳥インフルエンザは、北米、欧州、東アジア、インドなど北半球の大半に広がっている。

 カモ、ツル、ハクチョウなどの渡り鳥がウイルスを運んでくるといわれており、人類にとって食料安全保障上の脅威となっている。かといって、野鳥を殲滅(せんめつ)させるのは、生態系を破壊することになり、地球環境を守るうえでも、動物愛護の点からも、あまりに問題がある。

 渡り鳥が日本から旅立つ4〜5月くらいには、鳥インフルエンザが収まってくる。これが毎年のサイクルである。

 ニワトリにワクチンを打つことも検討されたことがあるが、完全に防ぐのは難しい。安全性も確認されておらず、日本を含めてどの国もやっていない。

 実際のところ、鳥インフルエンザの感染力が強くなる傾向があるのに対して、根本的な打つ手がないのが現実だ。

 この状況を見る限り、今後も養鶏農家の状況は厳しく、これまでのような安価な卵を食べられなくなる公算が高い。卵は物価の優等生から、残念ながら卒業していく流れだ。

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