国内販売に先駆けること10カ月前の22年4月、米国のクラウドファンディング「Kickstarter」でSiphonystaの先行販売を実施。ニッチな製品であるため、まずは認知を広げることを重視し、市場の大きなアメリカで挑戦した。アメリカでサイフォンコーヒーが人気という背景などは特にない。
「日本ではサイフォンで淹れている喫茶店が一部残っておりなじみがありますが、欧米では現在サイフォンはあまり使われていません。認知されていないので、苦戦するだろうと考えていました。まずは知ってもらいたいという思いでした」(和泉さん)
結果としては、目標金額の2万ドルに対して271%達成した。購入者は、30代から50代の男性が中心。コーヒーが好きな人はもちろん、ガジェット好きからも高い関心を持たれた。自分でコーヒーを淹れている人だけでなく、コーヒーメーカー自体が初めてという購入者もいたという。
日本では2月21日に発売。実売価格6万6000円にも関わらず、売れ行きは好調だという。
「発売前は不安がありましたが、思った以上にご購入いただいております。展示販売するお店については、まずは都心部の店舗や大型店に絞らせていただいたのですが、予想以上にインターネットでの注文や、取り扱いのない店舗への予約が多いため、今常設の店舗展開も増やすことも検討しています」(和泉さん)
それだけ発売前から注目が集まっており、全国にコアなコーヒー好きがいるということだろう。
だが、コーヒーに詳しくない人には説明を要する製品のため、認知度を広げるには、量販店の展示だけでは心もとない。そこで導入したのが、カフェやロースターといったコーヒーのプロにSiphonystaを紹介してもらい、販売ごとにコミッションを支払う「アンバサダープログラム」だ。
購入者にとっては説明や試飲の機会が得られ、クーポンコードを利用して購入できる。店にとってはネット注文となるため、在庫のリスクもない。
製品としては非常に個性的なSiphonystaだが、スペシャルティコーヒーや高級コーヒーメーカーのトレンドに沿っている。これは期せずしてタイガー魔法瓶の主力製品である炊飯器のトレンドとも合致している。ほぼ全ての家庭に普及した炊飯器だが、ここ数年10万円を超える高機能・高価格帯商品が注目され売れ行きを伸ばしてきた。
コーヒーは日常の飲み物であるとともに嗜好品である。炊飯器以上に尖った製品が求められ、受け入れられる世界だ。ミルを搭載した全自動コーヒーメーカー、エスプレッソマシンの流行に続いて、浸漬法コーヒーメーカーというジャンルを切り開こうとしているSiphonysta。やがては、日本からグローバルへとトレンドが波及していくかもしれない。
雑誌、Webメディア、単行本の企画・編集・執筆などを手がけるライター・コラムニスト。自慢できる家電「ドヤ家電」(日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定)を生み出す。近年はマーケティングやR&Dの領域で取材・コンサルティングを手がける。著書に、『ちょいバカ戦略: 意識低い系マーケティングのすすめ』(新潮社)など。
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