「いすゞ」に抜かれた日野自動車、過去最大1280億円の赤字 エンジン不正だけではない絶不調の要因妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(3/3 ページ)

» 2023年04月13日 05時00分 公開
[妄想する決算ITmedia]
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 続いて各市場についてもう少し詳しく見ていきましょう。

photo 決算説明会資料より

 まずは国内のトラック・バス市場について見ていくと、市場自体も日野自動車の認証不正問題と半導体不足や部品供給問題の影響で25.3%減と大きく下落してしまっています。日野自動車は39.9%減とさらに大きく減少し、市場シェアも35.9%→28.9%まで減少しています。

 国内トップシェアの日野自動車からの出荷がなくなり、半導体不足もあり大きく縮小してしまったようです。

 需要に関してはあるようですから、2月から販売を再開した大型トラックに加え、再認証を受け販売できる車両が増えていけば、業績の回復が起きてくる可能性もあります。まずは次回の決算で、販売を再開した大型トラックの売り上げが回復しているかに注目です。

 一方でアジア市場は伸びていましたが、その要因はインドネシア市場の好況です。インドネシアでは最近の天然資源高を受けて経済が回復し、これに伴い需要が増加したようです。また、タイでも経済が堅調で、好業績でした。

 米国市場では前期に生産と出荷を再開したことによって回復しています。しかしエンジンの認証の問題は依然として残り、他社エンジンを利用しての販売となっているためコストが増加している状況です。販売は回復していったとしても、利益面の回復は遠い状況でしょう。

photo 19〜20年のインドネシア・米国・タイ販売台数/決算説明会資料より
photo 21〜22年度のインドネシア・米国・タイ販売台数/決算説明会資料より

 コロナ禍前の19年と直近22年の販売台数を比較してみると、

  • インドネシア:2万7921台→2万3518台(15.7%減)
  • タイ:1万1581台→1万809台(6.6%減)
  • 米国1万4068台→3919台(72.1%減)

となっており全市場でコロナ以前には及んでいません。

photo 19、20年の10〜12月の3カ月間のインドネシア・米国・タイ販売台数/決算説明会資料より
photo21、22年の10〜12月の3カ月間のインドネシア・米国・タイ販売台数/決算説明会資料より

 しかし、直近の22年10〜12月の3カ月を19年の同期の販売台数と比較してみると、

  • インドネシア:9210台→9352台(1.5%増)
  • タイ:3311台→3830台(15.6%増)
  • 米国:4330台→707台(83.6%減)

となっており、インドネシアとタイに関しては増加していて業績の大きな回復が進んでいることが分かります。

 しかし、販売台数の推移を詳しく見ていくと、インドネシアは好調が続くものの、タイ市場は減少してしまっています。

 資源国であるインドネシアの好調は続くものの、資源高が進み世界的な経済にも悪影響が出ているため資源国ではないタイのような国では伸び悩みという状況にいるようです。米国での不振が続く状況と、現在の経済環境を考えると海外事業もさらに大きく伸びていくというのは難しいかもしれません。

photo 決算説明会資料より

 また、日野自動車はトヨタの子会社であるためトヨタのSUVのランドクルーザープラドやトラックのダイナなどを手掛けていますが、こちらは半導体不足の影響による3.1%の微減にとどまっています。

 さらに、タイや米国のトヨタ向けにユニット部品も提供しており、海外の好調を背景に14.9%増加と堅調な業績となっています。トヨタ向けの販売を堅調に推移させられるのは、業績不振の中で強みとなる部分でしょう。

まとめ

 日野自動車ではコロナによる市場縮小、北米のエンジン認証の問題による売上悪化、日本での不正による売上悪化と数多くの問題が起き、数期に渡り業績悪化が続いています。

 直近では国内市場の壊滅的な状況を受けて減益ですが、東南アジアを中心とする海外事業の好調やトヨタ向けが堅調で、増収となっています。

 しかし米国は大きく業績が悪化した状況が続いている上、タイ市場も直近では伸び悩んでいます。そして何より国内市場の回復には、最も時間がかかりそうです。

 特別損失による一時要因だけでなく、しばらくの間は業績悪化が続く可能性が高そうです。

 国内に関しては業界首位だった日野自動車の販売がなくなったことで市場が大きく縮小していて、供給が追い付いていません。需要はあるため、販売開始以降の業績がどうなるのかに注目です。

筆者プロフィール:妄想する決算

決算は現場にある1次情報とメディアで出てくる2次情報の中間1.5次情報です。周りと違った現場により近い情報が得られる経済ニュースでもあります。上場企業に詳しくなりながら、決算書も読めるようになっていく連載です。

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