北大阪急行延伸で「箕面」が激変 あえて“町外れ”に地下鉄を呼び込んだ、これだけの理由宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(1/3 ページ)

» 2024年05月11日 08時30分 公開
[宮武和多哉ITmedia]

宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:

乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。


【編集履歴:2024年5月13日12時30分 初出時、千里中央駅の所在地を「吹田市」としておりましたが、正しくは「豊中市」でした。お詫びして訂正いたします】

 北大阪急行電鉄(以下:北大阪急行)千里中央駅〜箕面萱野駅(約2.5キロ)間が、2024年3月23日に延伸開業した。箕面市に、はじめて地下鉄路線が到達したのだ。

 箕面萱野駅を発車する列車は大阪メトロ御堂筋線に乗り入れ、梅田まで25分、なんば(難波)まで34分で到達できるようになる。大阪の心臓部を貫く御堂筋線と一体化した北大阪急行の延伸開業という時点で、ただの鉄道路線の開業と比べると、地域に与えるインパクトは桁違いだ。

御堂筋線 北大阪急行線の延伸を告知するポスター(筆者撮影、以下同)

 これまで鉄道がなかった住宅街が「都心まで地下鉄1本、主要エリアに30〜40分」でアクセス可能になる。首都圏でいえば、荻窪・浦安・高島平あたりのポジションに躍進したようなものだ。延伸効果は早速あらわれ、沿線の直近の公示地価は大阪府内でトップの伸び率(箕面市今宮で8%以上)を示し、マンション・商業施設の建設が相次いでいる。新駅2駅(箕面萱野駅・箕面船場阪大前駅)周辺は、すでに関西有数の成長エリアに変貌を遂げているのだ。

御堂筋線 箕面萱野駅のホーム。大阪メトロの車両がそのまま乗り入れている(筆者撮影、以下同)

 一方で、「箕面が関西の急成長エリアに」と聞いて違和感がある人もいるかもしれない。大阪に住む人が「箕面」と聞いて連想するイメージといえば、「紅葉の名所」「滝と地ビール」「歌謡ショーが名物の巨大温泉(銭湯アイドル「純烈」の聖地)」「子どものころに遠足で行って、サルにお菓子を奪われて泣いた」などなど……。関西風にいうと、昔ながらの“ベタ”な観光地のイメージがいまだに根強い。(ベタ=関西弁で「ド定番」)

 しかし地下鉄が到達した地域は、確かに住所は箕面市だが、昔ながらの観光地や、箕面市の中心部(や阪急電鉄・箕面線沿線)からそこそこ離れており、ほぼ別の街に近い。

御堂筋線 箕面萱野駅と阪急・箕面駅の位置関係(地理院地図より筆者加工)

 地下鉄の建設費用の負担分として、箕面市は282億円をポンと投じたという。箕面市は、なぜ中心部から離れた萱野地区に地下鉄を呼び込んだのだろうか。まずは新駅周辺を歩きつつ、箕面市が目指す街づくりと、延伸の効果について考えてみよう。

周辺を歩いて分かった新駅の強み

 新しい地下鉄の始発駅・箕面萱野駅は、2003年に開業した「みのおキューズモール」に隣接しており、関西有数の複合商業施設として20年以上も賑わい続けている。敷地内にはスーパーやフードコート、医療モールなどがギュっと詰まり、大体の用事をここで済ませられる。

御堂筋線 箕面萱野駅に隣接した商業施設「みのおキューズモール」

 この「みのおキューズモール」は国道171号(通称:イナイチ)沿いにありながら、千里中央駅からのシャトルバスを頻繁に運行させるなど、公共交通での来場者獲得に力を入れていた(シャトルバスは片道のみ無料だったが、2022年に運行終了)。

 同店としては念願であった鉄道延伸・新駅開業によって、北大阪急行沿いの千里中央、桃山台・江坂などから広く集客ができるだろう。かつ、近隣5キロ圏内の商圏でひしめき合う「ららぽーとEXOCITY」「イオンタウン豊中緑丘」にはない、「実質的に御堂筋線と直結」という強みを手に入れたといえる。

 周辺の定住人口はそこまで多くないが、箕面市の他エリアよりは開発の余地がある。かつ、駅は新御堂筋、国道171号といった幹線道路の交点にあり、これまで千里中央駅から発着していた箕面森町、粟生間谷、如意谷、希望ヶ丘からのバスをまとめて集積させるには、うってつけの立地条件だ。

 バスターミナルを併設した箕面萱野駅は、周辺の団地から北大阪急行・御堂筋線につながる一大交通拠点として機能し、人口もこれから増えていくだろう。

御堂筋線 箕面萱野駅に併設されたバスターミナル

 もうひとつの新駅「箕面船場阪大前駅」の周辺には、「Brillia Tower 箕面船場」「レ・ジェイド箕面船場」「シエリア箕面船場」など、最高額が3億円を超えるような分譲マンションの建設が相次いでいる。

 このエリアはもともと繊維業者の商業団地(大阪市内の船場地区から移転)として繁栄していたものの、繊維業界の衰退や施設の老朽化によって急激に空洞化しており、延伸と再開発によって、街の新陳代謝と空き区画の再利用が一挙に進んでいる。

 また、駅の東隣には大阪大学・箕面キャンパス(外国語学部など)が移転・入居したため、朝晩を中心に大学生の利用も見込める。鉄道新線としてはハイレベルの「1日の利用見込み4.5万人」という試算も、新駅エリアを見る限り、十分にあり得るだろう。

 ここまで開業効果が見込めたにもかかわらず、北大阪急行の延伸は、検討開始から30年以上もかかり、1990年に運輸省が答申で掲げた「2005年までに着手が適当」という目標からも大幅に遅れた。

 なぜ今になって延伸を実現できたのか。箕面市の狙いと、その経緯を探っていく。

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