1時間に90本離着陸――なぜ、羽田ばかり超過密に? 「第三空港」「成田リニューアル」の可能性は宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(1/3 ページ)

» 2024年03月02日 10時00分 公開
[宮武和多哉ITmedia]

宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:

乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。


【お詫びと訂正:2024年3月27日午前9時35分 タイトルの一部を修正いたしました。訂正してお詫び申し上げます。】

 日本一利用されている空港は、どこでしょう?――この問いに、ほとんどの方が迷うことなく「羽田空港(東京国際空港)」と即答するだろう。

 東京都大田区の沖合を埋め立てて造られた羽田空港は、都内であれば武蔵村山市に匹敵する広大な敷地(1515ヘクタール)に4本の滑走路を擁し、1日約500便が発着。国内だけでも49空港と結ばれている。アクセスの良さから「都心にもっとも近い空港」として利用者にも選ばれ続けている。

 年間の利用者は5075万人(2022年度)、2位の成田空港(年間1541万人、22年度)に大差をつけており、あらゆる数値で国内トップの座は揺らぎそうにない。

羽田 (画像AC)

 しかし同時に、羽田空港は「日本一、かつ世界有数に過密な運用を行う空港」でもある。4本の滑走路に最大で1時間90本が離着陸するというこの空港は、米・アトランタ空港、UAE・ドバイ空港に続き、混雑度で世界3位にランクインしている(23年・英国オフィシャル・エアライン・ガイド調べ)。 このままの状態が続くと、運航の面でも集客の面でももろもろと問題が生じる。

 国(国土交通省)は羽田空港を拡張しつつ、さまざまな手を打っているものの、羽田空港への一極集中はむしろ進み、解消の見通しは立っていない。なぜ各航空会社は、一様に羽田空港への就航を目指すのか。首都圏の各空港の現状や、今後の見通しを探っていこう。

なぜここまで羽田に集中? 背景に2つの理由

 08年、規制改革会議は「首都圏での発着枠100万回」(羽田空港50万回、成田空港40万回、その他10万回)が掲げられ、羽田空港以外の拡張を行ってきた。その後各地で空港の改修・拡張が進んでいるものの、航空会社は相変わらず、羽田空港の発着枠獲得を優先して動いている。

 国内便・国際便ともに羽田空港への就航が集中する理由は、おおまかに2つ。「利便性の良さ」「羽田発着そのものが利益になる」ことに他ならない。

羽田 首都圏の各空港の位置関係と、アジアの国際空港とのアクセス比較(地理院地図より筆者加筆)

 羽田空港から都心部への移動は「東京モノレール」「京急空港線・成田スカイアクセス」(都営浅草線などに乗り入れ)などで、移動距離は15キロほど。ビジネス街や観光地など、ほとんどの拠点に20〜30分ほどで到達できる。

 「国を代表する都市への最寄り空港」として見れば、中国の北京大興国際空港(都心まで約46キロ、鉄道で約50分)、韓国の仁川国際空港(都心まで約60キロ、鉄道で約43分)などより、中心街へのアクセスは早くてラクだ。

 この利便性のおかげで、羽田空港はハブ空港としても人気を保ち、発着枠は「1枠当たり売上100億円、利益ベース10億円を出せる」「日本の国内航空需要の6割が羽田路線」という試算が出るほどの価値を保ち続けている(※)。

※:「羽田空港の発着枠配分の課題―競争入札による市場メカニズム導入の可能性―」(小野展克、名古屋外国語大学論集 第4号 2019年2月)

 過去に羽田空港の発着枠が拡大した際も、いまのスカイマーク、ソラシドエア、エアドゥの源流となる会社が次々と参入しており、発着枠そのものが利益、かつ業界の起爆剤ともいえる状態だ。過度な競争を避けつつ、限りある発着枠を分配するために、羽田空港の場合は5年ごとに見直しが行われている。

羽田 羽田空港へ向かう「東京モノレール」車両

 一方で、1978年に開港した成田空港(成田国際空港)は、開業当初の名称「新東京国際空港」からも分かるように、「東京国際空港」(羽田空港)に代わる役割を担っていた。「5本の滑走路」「2300ヘクタールの敷地面積」「成田新幹線で都心まで最短30分」「24時間運用」という当初の構想が実現していれば、今の羽田空港の代替を担い、過密状態をある程度解消することができただろう。

 しかしさまざまな事情で、構想の多くは実現しなかった。2010年に開業した「成田スカイアクセス線」でも都心まで50〜60分はかかり、東京から遠い問題はなかなか解決しない。

 成田空港は発着枠に空きはあるものの、かねての「利用が見込める時間の発着枠だけ埋まっている」状態は変わらない。立地的にグランドハンドリング(航空機の誘導やカウンター業務を担う)要員が集まりづらく、人員不足で増便要請を断るなど、新たな悩みの種も増えているという。

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