京葉線の「通勤快速廃止」 責任は本当に鉄道会社だけなのか宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(1/3 ページ)

» 2024年02月02日 08時00分 公開
[宮武和多哉ITmedia]

宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:

乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。


 「この駅に快速が停車するから」「始発駅だから」――そういった理由で郊外の街にマイホームを構え、都心に通勤する人も多いだろう。その前提が、突然崩れたとしたら……。多くの人が頭を抱える姿が想像できる。

 今、都内に通勤する人々が多いとあるエリアで、そんな事態が起きようとしている。

京葉線 京葉線の「通勤快速廃止」で波紋が広がっている

 東京の都心部から100キロ圏内に位置するJR外房線・上総一ノ宮(かずさいちのみや)駅(千葉県一宮町)は、朝のラッシュ時は1時間に6〜7本の上り列車のうち半数が東京駅に直通。この駅からの始発列車もある。

 中でも、東京方面に最も早く到着できるのは、上り1本・勝浦駅始発の「通勤快速」だ。この通勤快速は、JR京葉線内の途中駅・15駅のうち、13駅を通過(新木場駅・八丁堀駅のみ停車)。京葉線内だけで普通列車より20分近く早く走行し、一宮町から都心への所要時間は90分を切る(上総一ノ宮駅午前7時00分発・東京駅午前8時26分着。所要時間86分)。この距離感なら、十分に「東京への通勤圏」といえるだろう。

京葉線 外房線・内房線の「通勤快速」経路と所要時間。地理院地図より筆者加筆・加工

 しかし、2023年12月にJR東日本千葉支社が発表した翌春(24年3月)のダイヤ改正案で、この通勤快速が各駅停車化され、東京方面への所要時間が20分近く伸びることが判明した。ほか、上総湊駅始発・内房線からの通勤快速も同様に各駅停車化したとあって、外房線沿線の一宮町・大網白里市、内房線沿線の君津市・富津市などが一丸となった反発が起き始めた。

 さらに、京葉線内の快速列車も午後5時台・午後6時台の便が全て各駅停車に変更されるとあって、千葉市や千葉県知事までもがJR東日本にダイヤ改正の撤回を求める事態に。

 同社は急きょ方針を変更。24年1月16日に「通勤快速は廃止するものの、他の時間の各駅停車2本を上りのみ“快速”(通勤快速より停車駅が多い)に変更する」という、譲歩したプランを提示した。一度発表されたダイヤが、こうして再度変更されるケースは極めて珍しい。

 今回のダイヤ改正が思わぬ反発を生んだ一番の原因は、JR東日本が「沿線自治体に相談せず、一方的に通勤快速の廃止を決めた」ことだろう。しかし、JR側にも言い分はある。そもそも京葉線内での通勤快速の乗車率は低く(普通列車の7割程度)、「普通列車に混雑を平準化(分散)したい」という意図をもったダイヤ改正であったという。

 通勤快速は果たして、全ての人々に必要とされているのだろうか。まずは上総一ノ宮駅などから東京駅に向かう通勤快速を見守りつつ、なぜJR東日本が「通勤快速の廃止」という決断に踏み切ったのかを考えてみよう。

なぜ「通勤快速の廃止」に?

 「東京駅まで快速(もしくは相当する列車)で90分弱」という立地条件なら、高崎方面であれば籠原や深谷、宇都宮方面であれば小山あたり、東海道線なら国府津あたりが該当する。上総一ノ宮駅の場合は、多くの列車が当駅始発もしくは座れる状態で、周辺のマンションは中古なら1000万円以下、駅前には格安の月極駐車場もあり、物価も十分に安い。

 一宮町は「格安コストで移住できて、都心部直通の通勤快速で、座って通勤できる」というアピールポイントによって定住者を増加させ、都内への通勤・通学は町全体の7%(15年・国勢調査による)を占めているという。

京葉線 上総一ノ宮駅に停車する東京駅行きの列車。京葉線経由と総武快速線経由がある

 しかし、上総一ノ宮駅の利用者は1日2566人(22年度)と、通勤・通学客はそこまで多いわけではない。朝方の11両編成・東京駅方面の各列車の乗車人数は、この駅を出る時点で1両あたり10〜20人といったところ。大網駅あたりでようやく席が埋まるような状況で、各便ともあまり混みあってはいない。

 京葉線に入る蘇我駅の手前では、乗り過ごしの注意喚起を行うアナウンスが入り、そのまま直通で東京都内へ。蘇我駅を出る時点での車内は、「乗客数が普通列車の7割程度」よりもさらに空いているように見える。ほか、内房線から来る通勤快速も同様の状態だ。

 次の停車駅・新木場駅では1日3万人以上の乗客が東京メトロ・有楽町線への乗り換え(平成26年「大都市交通センサス」より)、次に停車する八丁堀駅でも、東京メトロ・日比谷線への乗り換えが多い。こうして徐々に、通勤快速の混雑も若干の余裕が生じる。

京葉線 京葉線・新木場駅ホーム。東京メトロ有楽町線・りんかい線からの乗り換えが多い

 一方で京葉線内の普通列車は、沿線の工場やオフィス街への通勤も多く、各駅で混雑が続く。沿線はマンションの建設ラッシュで人口の増加が続く見込みで、千葉市・習志野市・船橋市の臨海部(京葉線沿線)の移動手段は「鉄道利用が8〜9割」(千葉市資料より)。通勤快速を利用する地域だけでなく、普通列車しか停車しない駅でも、京葉線への依存度が高い。

 この状態で、退避によって通勤快速を通すため、普通列車に最大4分の待ち時間が生じる。2本の通勤快速を先に通しながら走る普通列車(午前7時51分・蘇我駅始発)は、日中の列車より全線の所要時間が10分ほど遅く、62分もかかるのだ。

 また、朝ラッシュに3〜5分間隔で発着している駅でも、通勤快速を先に通す時間だけは10分以上列車が来ない場合もあり、次の普通列車に乗客が集中してしまう。通勤快速はメリットもあれば、デメリットもそれなりにあるのだ。

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