北大阪急行延伸で「箕面」が激変 あえて“町外れ”に地下鉄を呼び込んだ、これだけの理由宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(3/3 ページ)

» 2024年05月11日 08時30分 公開
[宮武和多哉ITmedia]
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「資金確保完了」 箕面市ならではのお財布事情

 しかし、いくら鉄道が必要であったとしても、公共投資に向ける目が厳しい状況では、並大抵のことで鉄道延伸は実現しない。箕面市は他地域にない“ウルトラC”をもって、北大阪急行の延伸を呼び込んだ。

 実は、箕面市は公営ギャンブル(競艇)を主催しており、60年間で1600億円という莫大な収益金を受け取っている。自治体の懐具合を示す「財政力指数」を0.95(数値が1に近いか、高いほど良い。全国815市区で100位内)と高水準のまま保ち、教育や子育てに予算を費やせるのも、この収益金が原動力だ。

 北大阪急行の延伸費用のうち、箕面市が負担する費用は282億円。ちょっとした地方自治体の年間予算総額に匹敵する額(同程度だと長崎県南島原市、山口県萩市など)だが、箕面市はこれを、鉄道延伸のためにため込んでいた積立金(通称「北急貯金」)と、競艇の収益金でまかなう資金計画を早くから示し、国・大阪府・箕面市民を説得の上で事業化・着工に漕ぎつけた経緯がある。

御堂筋線 北大阪急行の延伸にかかる競艇の収益金と積立金でまかなわれた。(総事業費はその後874億円に増額)箕面市資料より

 さらに、2048年度までかかるはずだった資金確保も、予想外に多かった競艇の収入を活用して、何と開業前年(2023年10月)に完了してしまった。鉄道延伸後の費用負担によって20年、30年単位で苦しむ自治体が多い中、箕面市はかなり計画性があり、かつ運が良いといえる。

 なお、箕面市が競艇にかかわるようになった理由は、「競艇の発案者が箕面市(旧・豊川村エリア)出身」「その縁で、当時の箕面市長が率先して草創期の競艇を支えた」というものだ。この偶然と不思議な縁がなければ、北大阪急行の延伸はおろか、新しい市街地(萱野・船場)も生まれず、人口も減少局面に入っていたかもしれない。

 何はともあれ、箕面市の40年がかりの悲願であった北大阪急行の延伸は実現した。これを機に、新駅が開業した新しい箕面、観光地の多い昔ながらの箕面、魅力的な2つの街を訪れてみるのもよいかもしれない。

御堂筋線 箕面駅近くには「ミスタードーナツ」国内1号店がある

宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・駅そば・高速道路・都市計画・MaaSなど、「動いて乗れるモノ、ヒトが動く場所」を多岐にわたって追うライター。幅広く各種記事を執筆中。政令指定都市20市・中核市62市の“朝渋滞・ラッシュアワー”体験など、現地に足を運んで体験してから書く。3世代・8人家族で、高齢化とともに生じる交通問題・介護に現在進行形で対処中。

また「駅弁・郷土料理の再現料理人」として指原莉乃さん・高島政宏さんなどと共演したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」(既刊2巻・イカロス出版)など。23年夏には新しい著書を出版予定。

 noteでは過去の執筆記事をまとめている。


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