「楽天モバイル」はなぜ苦戦しているのか 背景に4つの誤算誤算の連鎖(3/5 ページ)

» 2023年04月23日 06時57分 公開

旗振り役が首相に まさかの官製値下げ

 2つ目の誤算は、携帯電話の官製値下げの問題です。楽天はそもそも、3大キャリア寡占状態で実質価格談合にあった携帯市場に、料金の引き下げをはじめとしたサービス改善を通じて利用者のキャリア間移動を活性化すると意気込み、新規参入した経緯があります。

 新規参入に向け、楽天は20年10月、監督官庁の総務省OBで、九州や北陸の総合通信局長や、内閣官房内閣審議官などを歴任し、情報通信分野の政策に精通した松井房樹氏を副社長に起用する人事を発表。政府も業界全体に競争原理への回帰を促す劇薬として、大きな期待を持って認可を与えたのでした。

 実際同社の事業参入時には「使い放題で2980円」という当時の3大キャリア平均利用額の半額以下のプランで攻勢をかけ、少なからず市場に刺激を与えていたといえます。

photo キャリア事業開始時のプラン(出典:楽天のプレスリリース)

 ところが、「携帯利用料金は4割程度下がる」を持論とする菅義偉官房長官(当時)が、首相に就任するという想定外の事態が起きます。首相は楽天の新規参入にも動じない3大キャリアの携帯利用料金に業を煮やし、政府が出資するNTTを通じてグループ会社ドコモに値下げを要請。そして、ドコモは20年12月、格安プラン「ahamo」を発表しました。

 結果的にKDDI(au)が「povo」、ソフトバンクが「LINEMO」を相次いで発表するなど、他2社もドコモに追随する官製値下げの構図が出来上がり、後発の楽天と同水準にまで値下げするに至ったのです。

photo 菅義偉前首相(出典:自由民主党公式Webサイト)

苦し紛れの「0円」プラン 収益出ず1年余りで廃止

 これには、さしもの三木谷社長も参ったのではないでしょうか。つながりの悪さを低料金でカバーするはずが、通信環境で圧倒的に勝る3大キャリアがこぞって楽天と同水準への料金値下げをしてきたのですから、たまったものではありません。

 楽天としては一層の値下げを余儀なくされたわけで、この時点で楽天モバイル単体での黒字化は、はるかかなたに追いやられてしまったといえます。追い込まれた楽天が苦し紛れに繰り出した策が、月間1GBまで0円で利用できる「Rakuten UN-LIMIT VI」、いわゆる「0円」プランでした。

 ですが、この奇策、0円範囲内だけで楽天を利用する複数キャリア契約者ばかりを集めることになり、契約者数は増えたものの肝心の収益には貢献することがなく、わずか1年余りで廃止の憂き目となりました。当然の結果ですが、廃止発表を受け、30万件超の回線が解約となりました。

photo 楽天モバイルの「0円」プラン

 「0円プラン」は月980円に変更し利用容量無制限を料金上限の2980円とする料金構成としたものの、3大キャリアに比べて特段魅力的ではなくなってしまったというのが、第2の誤算これまでの結末です。

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