「バーニーズ」はなぜ苦戦し、売却されたのか かつてはバブルに沸いた日本を象徴する存在長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/4 ページ)

» 2023年05月02日 10時40分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

新宿に日本1号店が誕生

 1990年にはバーニーズ ニューヨークの日本1号店が新宿に誕生した。伊勢丹と提携して、バーニーズジャパンを設立。地下1階から地上9階まで、10フロアものスケールを持つ大型高級ファッション専門店は前例がなく、バブル景気に沸いた、日本の富の象徴のように映った。

閉店したバーニーズジャパン、新宿1号店

 その頃のアパレルは毎日のように高級ホテルを借り切って、新商品発表会、ファッションショーを行っていた。寿司、ローストビーフ、オマール海老のロースト等高級グルメがテーブルにずらりと並んだ、ぜいたく三昧の食べ放題の立食パーティーを開いて、来場者をもてなした。

 そうした流れからして、今にしてみればバブルの塔のような、バーニーズ ニューヨークの大型店が誕生したのも必然だったといえるだろう。

 その新宿店は、バブル崩壊、2000年前後のITバブル崩壊、失われた20年とも30年ともいわれる日本経済の長期停滞とデフレによって、売り上げが落ち込んだ。新型コロナウイルスの感染拡大が決定打となって、売り上げが回復する目途が立たないとして、2021年2月28日に閉店した。

 現在のバーニーズジャパンは、福沢諭吉の提唱で造られた日本初の社交クラブ「交詢社」をルーツとする、銀座の交詢ビルに本店が入居している。その他、六本木、横浜、神戸、福岡、西武渋谷と、6店舗を展開している。主な取扱商品は、イタリアを中心としたヨーロッパ及び米国の紳士・婦人、服・洋品雑貨で、約70%がプライベートレーベルを中心とした、直輸入品だ。

バーニーズ・ニューヨーク銀座本店
銀座本店、リーバイスのディスプレイ

 バーニーズジャパンの直近5年の決算を、決算公告から見てみよう(それぞれ2月期)。

  • 2018年は売上高213.0億円、経常利益1.9億円
  • 2019年は売上高208.1億円、経常損失0.6億円
  • 2020年は売上高192.4億円、経常損失6.7億円
  • 2021年は売上高125.5億円、経常損失28.1億円
  • 2022年は売上高141.2億円、経常損失18.6億円

 これを見ても分かるように、コロナ前から赤字に転落していた。もとから経営が悪化しているうえに、コロナ禍で絶望的に赤字が拡大している。

 ただ、2022年は前年より幾分回復している。やり方次第によっては黒字に転換する可能性はあるが、セブン&アイではV字回復のビジョンが描けなかったのだろうか。

 セブン&アイも全く無策だったのではない。

 2021年8月27日には、初のコンセプトストアを、西武渋谷店B館1階にオープンしている。バーニーズジャパンが、百貨店のインショップとして出店した初めての店舗で、約80坪のスペースで、コンパクトにまとまっている。なぜこれまで実現しなかったのか。遅きに失した感がある。

バーニーズニューヨーク西武渋谷店
西武渋谷店のディスプレイ
西武渋谷店のディスプレイ

 なぜなら、セブン&アイは、そごう・西武も、バーニーズジャパンも、物言う株主の圧力に屈して、その後、手放してしまったからだ。せっかくの妙案だったのに、説明のしようがあったのではないのか。

 もともと、セブン&アイは、2015年にバーニーズジャパンを買収した際には、2005年に傘下に収めていたそごう・西武との相乗効果を狙うとしていた。

 そして、実際に西武渋谷店の店長を務めていた高橋幸智氏をバーニーズジャパンの新社長に迎えていたのだ(2019年に退任)。どうしても動きが遅く見えてしまう。

 もっとも、2016年9月に東京ミッドタウンの道向かいにオープンした新しい旗艦店、六本木店が軌道に乗らず、テコ入れに追われて、次の手が打てなかったのかもしれない。

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